春江

妄想小説

体操女子アシスタントの試練


 二十五

 「あかねさん。この間の体側面のストレッチ、ちょっと付き合って下さらない? あれをやっとくと、身体の姿勢がよくなる気がするの。」
 突然、本番直前になって吉村から言われたあかねは、何の疑いも持たずに快く応じる。
 「これって、体操前の準備にはいいですよね。」
 両手を上下にして吉村と横向きに並んで股を大きく広げてお互いに身体を引っ張りあう。その事が吉村の密かな企みであるのをあかねは全く気付いていなかった。
 「じゃ、本番に入りますのでスタンバイお願いしま~すぅ。」
 若いアシスタントディレクターが出演者に声を掛けて廻る。あかねも吉村と一緒にスタジオの中央へ踏み込んでいったのだった。

 いつものように並んで整列してお辞儀から入ったあかねは、自分の衣装の異変に気づいていなかった。本番直前に行った股を大きく広げて行うストレッチのせいで、クロッチになる股布部分が横に大きく広げられ、その後脚を閉じて立ったので伸縮性の強いレオタードの布地が股の割れ目に食い込んでしまっていたのだ。それは亜紀に注意されて、この日はインナーショーツを着けなかったせいでもあった。

マン筋

 ファインダーを覗きこみながら、センタに立つあかねの身体を顔からゆっくりアップで舐めるように下に向かってカメラの向きを下げていった若手カメラマンの足立は思わず生唾を呑み込んでしまう。所謂業界用語の(マン筋)がくっきりと見えていたからだ。足立は本番前にアシスタントの一人、吉村春江から言われた謎の言葉を思い出していた。
 (うっ、まづい・・・かな? でも、いいや。後で編集でカットすれば。それに秘密のディレクターズカットの方にはいい画として使えるかもな。)
 秘密のディレクターズカットというのは、スタッフだけにしか知られていない、特殊用途の映像カット版なのだった。

 「ふふふ。吉村さん。うまくいったわね。あかねちゃんのレオタード、ばっちりあそこが食い込んで、あそこの形が丸見えだったわ。」
 その日の撮影には出演せずに傍で見学していた君津亜紀が吉村に報告に来たのだ。
 「本番前に体側面のストレッチって言って股を大きく開かせたから、その後脚を閉じるとああなってしまうのよ。そのまますぐ本番に入ったから皺を直す暇もなかったのよ。」
 「でもあの映像はカットされちゃうんでしょ。残念ね。」
 「あら、貴方。知らないの。ああいう映像は放送には乗らないけど、ディレクターズカットっていって、そういうお宝映像ばかりを編集して裏のルートで流してるのよ。結構な値段で売れるらしいわよ。」
 「えっ? そんなの作って売ってるんですか。私も撮られたりしてるのかな。いやだ。」
 「あら、貴方も陰毛をはみ出させて演技したこととかあるの?」
 「多分、大丈夫と思うけど・・・。私も本当に全部剃っちゃっとこうかしら。万が一にも撮られちゃったりするといけないから。」
 「ふふふ。脇だけ手入れしとけば大丈夫よ。それにしても話を真に受けてインナーショーツ無しでレオタードを穿くとはね。次が愉しみね。」
 「え、また何かするの?」
 「あれだけでお終いじゃ手ぬる過ぎるわ。今度も手伝ってね。」
 「いいけど、何をするの?」
 「ちょっと耳を貸して。」
 「ふんふん・・・。えーっ、そんな事までするの?」
 「いい事。絶対内緒よ。」
 「それは勿論ですけど・・・。」
 二人の悪巧みの相談は細かい打合せにまで進んでいったのだった。

あかね微笑

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