あかね俯き

妄想小説

体操女子アシスタントの試練


 三十

 「すっかり汗掻いちゃったわね。でももう本番だから、終わったら一緒にシャワールームで汗流しましょうか。」
 「そうですね。」
 あかねは春江が渡してくれたタオルで額の汗を拭きながら本番収録が始まろうとしているスタジオに入っていったのだった。
 あかねが身体の異変に気づいたのは本番が始まってすぐだった。前回の収録の時の異変は急な尿意の催しだったのだが、今回のは股間の強烈な痒みだった。あかねには思い当たる原因がさっぱりわからない。蚊に刺されたような痒みだが、股間の何処ともはっきりせず、剃りあげた恥毛のあった部分辺り全体が痒いのだ。本番撮影が始まってしまっていて、カメラがずっと廻っているので、股間に手を伸ばして掻く訳にもゆかない。顔の表情を極力顰め面にならないように口角を挙げて微笑を保とうと努めているのだが、ちょっと気を抜くとあまりの痒みに泣きそうな顔になってしまうのだ。
 最初の「みんなの体操」の収録が終わって一旦ブレイクになったところで、さっとしゃがんでバレエシューズを履き直す振りをしながら、こっそり股間を掻き毟る。しかしその程度では痒みは収まってくれそうもなかった。
 すぐ続いて「ラジオ体操第一」と「ラジオ体操第二」の収録が始まってしまう。そうすると終わるまで股間に手を当てることすら出来ないのだった。
 そんな窮地を出番が来るまでカメラの後ろで控えている亜紀がじっと見守っている。春江が何をあかねに仕込んだのか聞かされていたからだ。一見ふつうにしているように見えるが、亜紀にはあかねの悶えるような痒みに堪える苦しい表情が手に取るようにわかるのだ。もう一人、カメラをあかりの身体と顔に照準を当てアップでずっと捉えているカメラマンが居た。一番の分かてカメラマンである足立だった。彼のカメラはサブなので放映用には殆ど使われないが、後で部分部分を編集で繋ぎ合わせることがある程度だった。(今日もきっといい画が撮れる筈)と吉村に本番前に言われて、ずっと矢田の表情をアップで狙っていたのだった。
 (今日のあかねさんは何だかとってもそそられるような表情をしているな。本番用には使えそうもないが、ディレクターズカットの方には間違いなく採用されそうだ。)
 足立は微笑を繕ってはいるが、何故か苦しげなあかねの表情を撮り続けていた。「ラジオ体操第一」から「ラジオ体操第二」に切り替わるところで、ほんのちょっとのブレイクがあり、矢田がしゃがんだ時もカメラを止めずにいたのだが、何とその矢田がしゃがんだ隙に辺りを覗ってからさっと股間に手を伸ばしたのだ。その一瞬も足立のカメラは見逃していなかった。
 (股間なんかに手をやって、何をしているんだろう・・・。)
 何も知らない足立は、訝しく思いながらも矢田の一挙手一投足を残らずビデオに収めていったのだった。
 漸く「ラジオ体操第二」まで録り終えたところでディレクターの西村が思いも掛けぬ発言をする。
 「えーっと、今日はこの後いつもはやっていない組体操を二人ずつ組みになってやって貰います。吉村さんが東郷さんからの伝言でやるように言われたそうで、要領はだいたい吉村さんから聞いています。まずは背の丈の近い人同士で組みになってください。えーっと吉村さんとは矢田さん、原西さんとは今川さん、君津さんとは立川さんが一緒にペアになってください。」
 体操アシスタントたちは殆どが事前に知らされてなかった様子で、ちょっとざわついたが、一番背の高い吉村、矢田ペア、中ぐらいの原西、今川ペア、一番背の低い君津、立川ペアの三つのグループになって夫々背中合わせで少しずつ離れて立つことになる。
 「ペアになった方々は互いの手を両側で繋いでおいてください。」
 言われたあかねは素直に手を出すと、吉村が事前のストレッチの時のように所謂恋人繋ぎで手を繋いできた。がっしりと掴まれるとあかねの方からだけでは手を外すことが出来ない。それはあかねに股間を掻く隙を与えないことを意味していた。その地獄の苦しみはすぐにやって来ることになる。
 「みなさん、両手を上に挙げてっ。片方がもう片方を背負うような形で相手の背骨が伸ばせるように抱えて持ち上げてください。」
 「あかねさん。最初は貴方を持ち上げるわよ。」
 「はい、わかりました。お願いします、吉村さん。」
 「はーい。持ち上げてぇ~っ。」
 逆エビ反りの形であかねは吉村の背中に載せられることになる。その間にも容赦なく痒みは襲ってくる。しかし両手をしっかりと吉村に掴まれているために、あかねはどうすることも出来ない。出来れば脚と脚を擦り合わせるだけでもしたいのだが、カメラがずっと捉えているためにじっと耐えているしかないのだった。
 「それじゃあ、今度は反対になってぇ。」
 指導者の声が掛かっても、春江はなかなかあかねを降ろさないのだった。
 「よ、吉村さん。交替ですって。」
 「え、何っ?」
 春江は惚けて聴こえなかったふりをする。
 「身体を入れ替わるんですって。早く下してっ。」
 「あ、いいわよ。はいっ。」
 やっとのことで春江の背中から降ろされたあかねだったが、吉村ががっしりと手を掴んで離さないので痒い股間はどうやっても慰めることが出来ない。
 「じゃ、吉村さん。持ち上げますよ。」
 あかねは脚を少しだけ窄めるようにしながら少しでも痒みが癒されるようにしようとするが、所詮痒いところに手が届く訳ではなかった。
 「はい、元の姿勢に戻ってぇ。」
 指導員の声が掛かって正立の格好に戻るとあかねは吉村の手を振り解こうとするが、春江はあかねの手をがっしりと掴んで離さない。
 「吉村さん。ちょっと一回だけ手を放してくださいませんか?」
 「あら、駄目よ。このまま次は体側面のストレッチに入るんだから。」
 そう言って両手は恋人繋ぎのまま次の体勢に移ろうとするのだった。

あかね微笑

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