就職相談

妄想小説

体操女子アシスタントの試練


 二

 矢田あかねは、卒業を控えたN体育大の四年生だった。もう卒業間近だというのに、就職面接は落ちてばかりで後がない状況に途方に呉れていたところだった。そんなあかりが最後の頼みの綱と思ってN体育大のOB同窓会に手伝いと称して参加した時に、同じ体操をずっとやっていた先輩の稲村さゆりから声を掛けられたのだった。
 稲村さゆりはずっと大手N局の体操の番組のアシスタントをしているのは知っていた。同じ体育大で体操競技をお互いやってきた先輩、後輩なのでよく知っている仲ではあった。そのさゆりの方から自分の代りに体操番組のアシスタントをやってみないかという誘いがあったのだった。
 翌日、早速大学近くの馴染の喫茶店で落ち合うとさゆりから詳しい話を聞かされたのだった。さゆりに依ると、体操アシスタントは公募はせずに基本的に現任者が辞める時に引き継ぐ者を推薦で選び出し、担当プロデューサが面接をして決めるのだという。卒業を前にして就職口が全く決まる気配のなかった矢田あかねはこの話に一も二も無く飛び付いたのだった。さゆりはアシスタントとしては長い方だったが、結婚して家事、育児に専任したいというのが辞める理由のようだった。さゆりが体操アシスタントとしては美貌とプロポーションの良さで人気が高いというのも認識しており、そのさゆりから声が掛かったというのもあかねにとっては鼻高な思いを捨てきれない。ただ唯一の気掛かりは担当プロデューサが気難しいというさゆりの話だったが、体育会系特有の何が何でも頑張り通すという不屈の精神があかねの決意を後押ししたのだった。

 「君は確か稲村君の三期下だそうだね。」
 「あ、はい。稲村先輩とは体操専攻で、体操部で一年だけ一緒の時期がありました。」
 「そうか。三つ下か・・・。そういう若作りの格好が浮いて見えないところがなかなかいいね。それだけ若々しいっていう事か。」
 「え、そうですか? こういうの、久々でちょっと恥ずかしかったんですが。」
 「いや、なかなか似合っているよ。」
 あかねは先輩の稲村さゆりのアドバイスに従って、齢より若く見える格好にしてきたのだった。
 (いい事? 面接の時はリクルートスーツとかは駄目よ。会社員じゃないんだから、大人ぶってみても見透かされるわ。却って若ぶって見せることのほうが大事よ。特にあの方は業界人だから会社のリクルート面接官とは違うから。それにあの人、若い子の格好が好きなのよ。)
 そうさゆりに言われて、何を着ていくべきか迷ってしまったあかねだったが、思い切って女子高生風の格好に決めてみた。実際、穿いていったミニスカートは高校生の頃、制服として使っていたものだった。胸には制服の時のに似たタイをさり気なく締めてみたのだ。

あかね微笑

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