妄想小説
体操女子アシスタントの試練
五十三
着替え終えたあかねがスタジオに戻ってくると足立らは既にスタンバイしている。
「これって、スカートですけど・・・。こんなんで体操、するんですか?」
「ああ、プロデューサがもう少し女性らしさを追求したいそうなんだ。」
あかねは岡村美香から東郷が美的感覚を大事にすること、とりわけ女性らしさを気にするのだと聞いていた。ロシアのバレエなどの影響なのではと美香は言っていたのを思い出す。
「あの、こんなので体操するとスカートの裾の中が覗いてしまうんじゃありません?」
「大丈夫だよ。後で編集するんだから。その辺は気にしないで思い切って動き回ってほしい。」
「あの・・・、せめてアンスコは穿いておいた方がいいのじゃないでしょうか。」
「いや、プロデューサからアンスコを穿いた女性は、動きが却って不自然になるからよくないとのお達しなんだ。」
「そんなんですか? わ、わかりました。」
あかねはディレクターの言うことを信用して、すんなり引き下がることにした。短い丈のスカートの下は自前のショーツしか穿いていないのが少し不安だったが、全てを撮影スタッフに任せることにした。
「今回はプロモーションなんで、いつもの体操じゃなくてこちらが指示するポージングを流しているBGMに合せて取ってくれるかな。音声とは後で編集で繋ぎ合わせるのでそんなに気にしなくていいから。」
「そうですか。」
「じゃ、そろそろいくよ。キューっ。まずは全身の伸び運動から。両手を高く上に挙げてっ。」
あかねはディレクターが出す指示のままのポージングを次々と取っていく。カメラは真正面と前後左右から固定カメラが廻りっ放しで、クレーンがローアングル、ハイアングルと自在に動き回る。
「カメラはあまり意識しないで、自分の動きに集中してっ。」
「はいっ。わかりました。」
「じゃ、今度はそのままY字パランスを取ってぇ。」
(えっ、Y字バランスって。こんな短いスカートでやったらショーツが覗いてしまうわ。)
あかねは最初に東郷の面接を受けた際に、スカート姿のままY字からI字のバランスポーズを取らされたことを思い出した。
(やっぱり全部、東郷プロデューサの指示なんだわ。気にしないで、演技に集中しよう。)
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