妄想小説
体操女子アシスタントの試練
五十四
あかねはカメラを意識しないでとディレクターに言われたので、極力カメラを無視して言われた通りのポージングを取っていたが、気のせいか移動カメラはあかねのスカートの奥を狙っているような気がしてならないのだった。
「はい、今度は両手を組んだまま、脚を大きく開いて体側面を伸ばしてぇっ。」
「はいっ。」
あかねが脚を開いて身体を横に捩じっていくと、それに従ってクレーンに載った移動カメラがアングルを下げながら真正面から背後の方へ動いてくる。
(そんな下から撮られたら、ショーツが丸見えなのじゃないかしら・・・。)
不安になりながらも、あかねはディレクターに言われたポーズをカメラを無視して取り続ける。
「はい、じゃ最後にバランスボールに乗ってリラックスしたポーズでカメラに向かって微笑んで。あ、脚は心持ちもう少し開いて。」
「あ、いいよ。いいねえ。もっとリラックスして。楽しかったって雰囲気で。そう、そんな感じ。はい、これで終了でぇすぅ。」
「ねえ、足立さん。最後のポーズなんか、パンティが完全に映っちゃってなかった?」
「え、あ、ああ。大丈夫ですよ。最後のシーンはカメラがかなり寄っていて、アップになってましたから、下半身は映ってないと思いますよ。」
足立はあらかじめ西村から言い含められていた通りの受け答えをする。
「あ、ごくろうさん。いい画が撮れたと思いますよ、あかねさん。」
「あの、西村さん。撮影中に思い出したんですけど、この前撮ったインタビューの撮影で、下着が映っちゃってるって言ってましたよね。あれ、どうなりました?」
「ああ、放映出来ない箇所は全部編集でカットしてありますよ。ご心配なく。」
「だったら、撮影に使ったV(ビデオ)は私に返してくれませんか。」
「え。Vを? それはどうかな。多分もう処分済みの筈だから。ああいうのは万が一、流出したりするといけないからすぐに処分することになってるんで。」
「そう・・・なんですか。」
西村が処分という言葉を使ったのは、別の意味での処理という意味だったのだが、あかねはそんな事とはつゆ知らないのだった。
あかねが更衣室に消えると西村はすぐに足立を呼び寄せる。
「もしかしたら怪しまれているかもしれないんで、編集は今晩じゅうに大至急で仕上げるんだぞ。あかねに訊かれたら、見せていいバージョンだけ見せるんだからな。いいな。」
二人だけで一緒にこれから編集作業に入るカメラマンの足立に、念を込めて言い含めておく西村なのだった。
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