妄想小説
体操女子アシスタントの試練
三十九
「それじゃあ、明日の撮影はいつもの体操実技とは変ってN局のドキュメンタリー番組の撮影になりますので、各自私服のままで12階の第四応接室に集合してください。」
前日、アシスタントディレクターによって告げられたのは「体操アシスタント達の素顔」というドキュメンタリー番組の収録協力だった。普段、体操アシスタントとして番組に登場している出演者達をドキュメンタリー形式のインタビューで取材して、普段の素顔を知って貰おうという企画だった。その事を前日の収録直後に知らされたあかね達だったが、あかねにはそれに加えて更なる注文がディレクターの西村を通じて例の怪文書という形で通知されていたのだった。
「あかねちゃん。また、ラブレター届いているよ。熱心なファンがいるみたいだね。」
あかねに封書を手渡しながら、ディレクターの西村は茶化しながらそう言ったのだった。
「違うんです、西村さん。そういうんじゃないですってば。」
そう言いながらもあかねはそれは脅迫の手紙なのだとは言えない自分にもどかしさを感じているのだった。そしてその手紙に書かれていたのは又してもあかねには非情の命令が書かれていたのだった。
<明日のドキュメンタリー収録には、局へ初めて入所した日に着ていたミニのワンピースを着用して来る事。当日、膝の上には決して手を置かない事。約束が守られなければ即刻あの動画を拡散する。>
それはあかねに痴態を演じるように命じる脅し以外の何物でもなかった。局へ初めて入所した日に着て行ったミニのワンピースというのは忘れようもなかった。自分に今の職を紹介してくれた稲村先輩のアドバイスで、ミニの服が局の上層部には受けがいいというので選んでいった、あかねが持っている私服の中でもかなりの際どさの短い丈のものだったからだ。
(あんな短いワンピースで膝の上に手を置くことを禁じられたら・・・。)
あかねにはリベンジポルノを仕掛けている者の意図が薄々分ってきていた。とことんまであかねを辱めようというのに違いなかった。しかし今のあかねにはその理不尽な命令に従わない訳にはゆかない立場しかないのだった。
「あら、あかねさん。凄っごい短いスカートなのね。やっぱり脚の長い人は得よね。そんなに脚を露出しても似合っちゃうんだから。」
羨ましそうに言ったのは君津亜紀だった。背の低い亜紀は、ひざ下まである長めのロングスカートだった。
「私もミニにしようと思ったけど、矢田さんには負けると思ったからスカートは止めたわ。」
そう言うのはパンタロンスーツでやってきた吉村春江だった。
(違うのよ。わたしだって好きこのんでこんな短いスカートで来たかった訳じゃないの。)
そう言って抗議したいあかねだったが、それを口にすることは出来ないのだった。
「えーっと、そうね。あかねさんは一番見栄えがするからこっち側の真ん中に座ったらどうかしら。反対側はインタビュアーの人が座るとしてわたしはこっち。君津さんはそこで、今川さんと原西さんはこっちでどうかしら。」
皆が座る位置を取り仕切るのは、アシスタントの中では一番の年長の吉村春江なのだった。
すぐに撮影クルー達がやってきて、撮影を取り仕切るN局のディレクターと司会役のアナウンサもやってくる。あかねが席に着く前に撮影カメラは動き始めていた。
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