妄想小説
体操女子アシスタントの試練
四十四
「ディレクターの西村君から聞いたんだが、収録中に倒れたそうだね。」
プロデューサの東郷の部屋に入るなり、そう訊かれたあかねだった。
「え、ええ・・・。あ、あの・・・。お話ししたいことが・・・。」
あかねはもうこれ以上、体操アシスタントを続けることが出来ないと思って東郷には打ち明けることにしたのだった。
「ふうむ。そうなると、君のリベンジポルノを撮った犯人は意外と身近に居るということになるね。」
「え、身近・・・ですか?」
あかねには意外だったが、言われてみればいろんな事が辻褄が合ってくる。
「すべて私に任せてくれないか。君はもう少し何もなかった振りをして今まで通りでいてくれ。命令された例のモノは前の方だけ入れて、後ろは無理しなくていい。表情も無理しないで、動きを感じたら素直に顔を顰めるんだ。それが合図になって犯人を特定出来る筈だから。」
東郷に言い諭されて、あかねはもう一度収録のスタジオに出ることを決意したのだった。
その日、テレビ体操の収録準備中のスタジオには東郷プロデューサの姿があった。
「あ、東郷プロデューサ。スタジオ入りは珍しいですね。」
東郷が近寄って行った一番若いカメラマンの足立は、その日はクレーンカメラが担当だった。
「今日はクレーンカメラ担当だったな。これをカメラの上部に取り付けておいてくれ。アンテナは一杯まで左右に伸ばして。」
「はいっ。何スカ、これっ?」
「まあ電波探知機のようなものだ。いつものインカムとは別にこのイアホンも耳に点けておいてくれ。音が聞こえてきたら、音が大きくなるほうにカメラを移動してゆくんだ。最も大きくなる位置のすぐ上で一旦停まるように。」
「ええ、わかりました。クレーンカメラはディレクターの指示は直接受けないんで、自由に動けますから。」
「じゃ、頼んだぞ。おれは後ろの方に控えているから。」
「了解です。」
指示を終えると、東郷はスタジオの隅に目立たぬようにそっと立つのだった。
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