妄想小説
体操女子アシスタントの試練
三十六
事件が起こったのはそれからすぐの事だった。あかねの元に一通の手紙が届いたらしく、ディレクターの西村が手渡してくれたのだ。
(一体、何かしら・・・?)
控え室の片隅で封を切ったあかねは封筒の中から一枚の紙切れを見つける。そこには一行、アルファベットで書かれた文字列が並んでいるだけだった。パソコンにそれほど詳しくないあかねでもそれがURLと呼ばれる特定のネットを表すアドレスであることはすぐに分かった。家に帰れば自分のパソコンで調べてみることは出来るのだが、何となく嫌な予感がして早く調べてみたくなった。アシスタントの控え室には一台だけリハーサルの画像などを再生したりポージングを確認したりする為の共有のノートパソコンが置いてあった。局内のWIFIにも接続されているので、すぐにURLの接続先を確認することが出来る筈だった。あかねは他に誰も居ないのを確認してから共有パソコンを開いて手紙で送られてきた文字列を打ってみたのだった。
(こ、これは・・・。)
それはUチューバなどと言われる画像をネット上にアップロードするマニアなどが立ち上げている動画サイトの一種だった。しかし再生されている画像にあかねは凍り付いた。
画面に映し出された女性は顔から上が切れて胴体部分しか映っていない。白っぽいレオタードを着て両手は背中で括られているようだった。脚の両膝部分が何かに括り付けられているらしく大きく股を開いてがに股の格好で腰を落としている。身体を捩るようにして身悶えしているのは尿意を我慢しているように見える。その様をひと目観た時から夢だと思い掛けた自分の姿であると気づいたのだった。
(い、嫌っ。誰? こんなものを撮影してネット上にあげるだなんて・・・。)
食い入るように見つめるあかねの前で、動画サイトの女性は限界を迎えたらしく、股間に出来た沁みが見る見る間に広がっていって、やがてその中心からポタポタと雫が垂れ始めたのだ。
(いやっ。)
慌ててあかねはバタンとパソコンを閉じる。そしてすぐ気づいて、辺りに誰も居ないのを再度確かめてからパソコンを開き直し、動画を止めると検索履歴を消去する。
(どうしよう・・・。)
あかねは自分の心臓がばくばくと高鳴っているのを感じていた。
(何て言ったかしら、こういうの。えーっと、・・・。そうだ、リベンジ・ポルノだわ。これってリベンジ・ポルノなのかしら。サイトには何か目印になるようなキーワードも何も無かったようだった。それならばURLを知らない誰かがキーワード検索でそのサイトを見つける可能性は低い。それにあかねの顔は映っていなかった。万が一、誰かにみられてもあかねだと気づかれる心配はないかもしれない・・・。)
あかねは楽天的に考えようとしてみる。しかしどう考えても誰かの魔の手が自分に忍び寄りつつあるという考えを跳ね除けることは出来ないのだった。
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