妄想小説
体操女子アシスタントの試練
四十七
その日の収録は午前中からあるので、あかねが出勤してくる頃合いを見計らって亜紀は会議室の隅に潜んで待受けることにした。
会議室の扉を少しだけ薄く開いて待受ける亜紀の目に一人で出勤してきたあかねの姿を見つけた亜紀は誰にも気づかれないようにあかねの袖を引っ張って会議室に引っ張り込む。
「ね、貴方でしょ。貴方の仕業よね。」
突然食ってかかるように言われたあかねは、ぽかんとしている。
「惚けたって駄目よ。こんな事するの、あなたしか考えられないもの。」
「え、何のこと? こんな事って・・・。」
亜紀にはあかねがわざと惚けているのか、本当に何も知らないのか判別がつかない。しかし状況から言って、あかねが絡んでいない筈がないと思ったのだ。
「うっ・・・。あの、鍵よ。あの鍵は何処にあるの?」
亜紀の口から『鍵』という言葉が出てすぐにあかねは前の晩に東郷に言われた謎の言葉を思い出した。
『誰かに鍵の事を訊かれたら、本当の事を話したら教えてあげると言うんだ。』
その時は何を言われているのか全く分からなかったあかねだった。
「鍵・・・なのね。そう。だったら、本当の事を全部話して。そしたら考えるわ。」
「え、本当の事・・・、全部・・・? わかったわ。」
突然、亜紀は床に手を突いてあかねの前で土下座の格好を取る。
「赦して。みんな私達がやった事なの。全部、話すから・・・。」
そうして語り始めたのは、亜紀が吉村春江と共謀して、いや正確には春江に唆されてあかねを騙したことの全容だった。
「ごめんなさい。赦してください。もう二度とこんな事はしないと誓います。ですから、どうかあれの鍵の在り処を教えてください。」
亜紀はあかねに全てを白状する間、頭を下げっ放しだった。さすがにあかねも亜紀が可哀想になる。
「鍵だったら東郷さんの所にあるわ。」
「と、東郷さん・・・? わかった。ありがとう。」
亜紀はあかねの顔も見ないで、そのまま立上ると東郷の部屋のある階へ一目散に向かったのだった。
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