留守番 完結編



逃げ損ね

 七

 美鈴が目を醒ました時、男もソファで転寝をしているところだった。我に返った美鈴は、何が起きていたのかすぐに思いだした。肌蹴ている着衣の乱れを直す余裕もなく、半分緩められていた縄をもがいて解くと、玄関へ向かう。
 (逃げなくっちゃ・・・。)
 膝ががくがく震えていた。玄関のドアを極力静かに開いて身体を半身出すと、男のほうを振り返る。まだ寝込んでいる様子だった。
 (急いで逃げなくては。)
 焦る気持ちが、細心の注意を怠らせてしまった。爪先が玄関に置いてあった傘立てを蹴ってしまったのだ。慌てて手を伸ばしたが一瞬間に合わなかった。
 バターンと大きな音を立ててしまった。美鈴は男のほうを確かめることなく、そのまま門へ向けて走り始める。足がふらついてしまって、何度も転びそうになる。
 (もう少しだ。あそこさえ越えてしまえば・・・。)
 しかし、あとほんの少しで門まで辿り着くところで、美鈴は男の手に捕まってしまった。大声を挙げようとした瞬間に男の強い手で口は塞がれた。両手を背中に捻り上げられ、否応なく屋敷のほうへ連れ戻されていく。
 男がほんの一瞬油断した隙に、門に向かって走り出した美鈴だったのだが、男の足に勝てなかったのだ。

 玄関から屋敷の中へ入ると、男はまた美鈴の両手を背中に回し、太いロープで縛り上げた。ロープで自由を奪い、抵抗出来なくしておいてから、今度は美鈴のセーラー服のスカートを毟り取った。
 既にパンティは奪われているので、短めのセーラー服の上着から、下半身は剥きだしになっている。しかも、両手は後ろ手に縛られているので、隠す術もないのである。
 「そんなに外に出たかったのかい、お嬢さん。そんなら表へ出してやるよ。」
 美鈴は真っ青になった。
 「ま、まさか。こんな格好のままで、・・・い、嫌よ。」
 後込みする美鈴の胸ぐらを乱暴に掴むと、男は下半身素っ裸の美鈴を玄関から外に引っ張り出した。
 「お、お願いです。許して下さい。」
 しかし、今後は大声を立てることは美鈴には出来なかった。誰かに助けに来て貰うにせよ、こんな姿を見られるくらいなら死んだほうがましだった。
 嫌がる美鈴を虐めるように、男は外のほうへ、門のほうへ美鈴を突き飛ばしていく。
 門からはまだ遠いし、門の前に大きな欅の樹があるので、外のほうからは直接は覗かれない。しかし、これ以上門に近づけば、外からも丸見えになってしまう。
 美鈴は男の前に跪いて許しを乞う。
 「逃げようとした私が悪うございました。どうか、こんな格好で外に出させるのはお許しください。・・・」
 とうとう、そう言わざるを得なかった。
 「やっと分かったようだな。しかし、もっとよく分かるようにしてやる。もう二度と逆らわないように思い知らせてやる。」
 男は美鈴の髪の毛を掴むと、門の前の欅の樹のところまで引き立てて行った。樹の向こう側はもう美鈴の家の屋敷の外の往来であり、いつ誰が通りかかるか知れなかった。
 幸い欅の樹は大きいので、その陰で向こうからは見えない位置に居た。

美鈴

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