留守番 完結編 第二部
五十
「こっちよ。薄暗いから足元に気を付けてね。」
先を行く美鈴が後ろからついてくる恵子を気遣って時々振返りながら声を掛ける。その時、耳をつんざくような悲鳴が遠くから聞こえてきた。螺旋階段を降りきったところから横に延びる細い回廊のような抜道を進んでいた恵子は井上先生が連れていかれた地下室の傍なのではないかと想像する。
「あれって、もしかして井上先生の声かしら。」
「そうらしいわね。ここは多分、地下室の横を通る回廊の筈だから。そうだ。確か、途中に地下室の方を覗ける覗き窓があった筈。」
随分久しぶりに通る地下の抜道だったが、美鈴にもだんだん昔の記憶が蘇ってきた。
「えーっと確かこの近くだった筈。ねえ、恵子。声を顰めて。あいつに感づかれるといけないから。」
「そうね。わかったわ。」
小声で囁きかえしながら悲鳴のするほうに徐々に近づいていく。悲鳴はだんだん大きく聞こえてくるようになり、その合間に空気を突ん裂くような鋭い音がしている。
「あれっ、鞭かしら。」
「しっ。静かに・・・。あ、ここだわ。」
美鈴は木の蓋がされたような形の小窓のような場所で立ち止まる。
(これだわ。)
見覚えのあるコルクの栓のようなものが木の蓋に嵌っている。
(これをそおっと抜けば・・・。)
栓を抜いた後に小さな穴が二つ現れる。美鈴はその穴から向こう側を覗きこんでみる。
次へ 第二部 先頭へ戻る