留守番 完結編



母親磔

 十七

 「おい、目を上げて画面を見るんだ。これもお前のママなんだろ?」
 男に言われて嫌々顔を上げた美鈴の目に映ったのはガーターベルトの上に派手な下着を纏ったまま、暖炉のマントルピースのような所に両手を広げて手錠で磔にされた一人の女だった。その女性がいまにもその頼りなげな下着を剥ぎ取られようとしていた。
 「どうだ、お前のママなんだろ? ふうん。答えられないということは、そうだと言ってるようなものだな。ところでここは何処なんだ。 この屋敷の中なんだろ?」
 「多分・・・、地下室だろうと思います。子供の頃しか行ったことがないので・・・。今はパパが立ち入りを禁止して鍵を掛けているので、もうずっと行ってません。」
 「ふうむ。立ち入り禁止とは妖しいな。ちょっと見てみたくなったぜ。案内して貰おうか。おっと、その前に、お前のオヤジの部屋へ先に行くことにしよう。」

 美鈴は父親の部屋に案内させられると、再びドアの取っ手に首輪の鎖を繋がれてしまう。父親の部屋は重厚そうな分厚い板で出来た書き物机を中央にして年代ものらしい大きな書棚に囲まれている。
 「ふうん。オヤジの書斎って訳だ。さてと・・・。さすがに鍵の置き場所は教えて貰ってないんだろ。だが、だいたいの見当はつくんだ。この家の大きさと古さからしたら、部屋の鍵はそんなに小さくはない筈だ。」
 部屋の角にはクロゼットらしい観音開きの扉がある。男が勝手に開けると、スーツやフロックコートの類がずらっと並んでいる。
 「さしずめ、この奥辺りが怪しいな。どれっ。・・・。やっぱりここか。」
 ずらっと正装用の服が吊るされたその奥に鍵を掛けておくフックがあって、そこから男は何本かの大き目の鍵を取り出す。
 「さて、それじゃあ今度は地下室への入り口へ案内して貰おうか。」
 男は有無を言わさない口調で、美鈴に指図するのだった。

 地下室への入り口は一階のホールから食堂へと抜ける廊下の途中にあった。柱の裏側のような場所に扉があり、注意していなければ通り過ぎてゆくような場所だ。後ろ手の手錠で自由が利かない美鈴に代わって男が鍵穴に古い鍵を差し込むと、軋む様な音がして重い扉が開く。その向こうの薄暗い中に、狭い螺旋階段が地下へと向かっているようだった。
 何処からか洩れてくる微かな光しかない暗い螺旋階段を手錠を掛けられた美鈴が先に立って案内させられる。子供の頃何度か入ったことがあるきりで、もう微かな記憶しかなかった。螺旋階段を下まで降りきると細い廊下が真っ直ぐ伸びていて天井のほうに明り取りの孔が幾つか開いているらしく、柔らかな光が降りてきている。廊下の両側に幾つかある扉のうちのひとつの前に立つ。

美鈴

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