留守番 完結編 第二部
三十五
「何なの、あれは? 何を挿しているの? 美鈴は苦しがっているんじゃない。」
「ああ、あれかっ。こいつはこれを挿してないといられない身体になったんだ。あとでお前にも同じことをしてやるから、どうしてだかその時分かるだろうよ。」
「何ですって?」
「何せ、お前たちは同じ精を浴びせられた姉妹のようなもんだからな。」
男の言葉を耳にした美鈴は、恵子の身に起こったことを咄嗟に悟る。
「さて、涙のご対面はこれで終わりだ。こいつには次の用があるんでな。この屋敷の反対側にも同じ様な部屋があるんで、お前はそっちで暫く大人しくしていて貰うからな。さ、行くんだ。」
男はドアの取っ手から鎖を外すと、ドアを閉めて恵子をもう一つの屋根裏部屋の方へ牽いていくのだった。
美鈴の元へ戻ってきた男は、足を吊っている縄はそのままにして猿轡の手拭だけを外す。
「ぷふっ、はあっ・・・。」
漸く猿轡を外して貰えて、美鈴は唾を呑みこんで息を継ぐ。
「お前には、これからここに掛かってきた先生からの電話に出て貰う。俺が教えた通りに言うんだぜ。いいな。」
「井上先生に電話するですって? 嫌よ、あんたの言うことなんか聞かないわ。」
「へえ、そんな事言ってさっきの友達がどんな目に遭ってもいいっていうのかい?」
「恵子に何するつもり? やめてっ。恵子には何の関係もないんだから手出しはしないで。」
「だったら言う通りに電話するんだな。」
「ううっ・・・。わ、わかったわ。何を話せっていうの。」
美鈴は男から聞かされたシナリオを知って、狼狽する。
「何て事を考えてるの、あなたは・・・。先生まで巻き込もうっていうのね。」
「いいから、俺が行った通りに電話するんだ。どうする? するのかしないのか?」
美鈴はこの状況では男の言いなりになるしかないと観念したのだった。
「わかったわ。言う通りにするわ。」
「ふふふ。そうか。ちょっとでも変なことを口にしたらすぐに電話を切って、友達を折檻しにいくからな。」
男はそう美鈴を脅すと、美鈴の携帯電話を取り出して井上先生というボタンを押してスピーカーホンに切替えるのだった。
「あ、先生? さっきはご免なさい。携帯を近くに置いてなかったので気づかなかったんです。」
「あら、いいのよ。美鈴さん。恵子さんから聞いたわ。今朝、貧血を起こしたんですって? 今は、大丈夫なの?」
「ええ、もう大丈夫。午前中、寝ていたら回復したみたい。」
「今、ご両親が不在なんですってね。恵子さんがそう言ってた。放課後寄ってみるって言ってたけど、恵子さん、来た?」
「え? いいえ。来てませんけど。」
「あら、変だわね。何だか心配になってきたわ。先生もちょっとだけ様子を見に行こうと思ってたんだけど。」
「そんな・・・。悪いです。ちょっとふらふらするけど、大丈夫だと。多分・・・。」
「病気の受け持ち生徒を放っておけないわ。これからお邪魔するけどいいわね。」
「あ、はいっ。わかりました。」
「じゃ、あとで。」
ツー・・・。
男は井上先生が心配するように、わざと恵子がやって来なかったことにし、更にはふらふらしてるなどと美鈴に嘘を吐かせたのだった。目の前で見張って遣り取りを聞いている男の前では、言われた通りに話すしかなかったのだった。
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