留守番 完結編 第二部



onehand

 五十五

 男は薫が逃げ出さないように片方の手に手錠を掛け直すと壁から下がっている鎖付きの手枷の一つに反対側を繋ぎ留める。
 男が慎重に、しかし小走りになって一階のホールに出ると、ペニスを生やしたダビデ像が横に倒れている。
 「きゃっ。」
 厨房の影から叫び声が聞こえたと思ったら、黒い影が玄関に向かって走っていく。
 「あの小娘だな。待てえ。」
 男も必死で追いかける。少女はまだ後ろ手に手錠をしている。
 (手錠を掛けられたままでは外へは逃げれまい。)
 そう思いながら裏庭のほうへ逃げていく少女の後を追う。男の目に昼間、少女を繋いでいた木の十字架が見えてきた。少女との距離は次第に詰まっていた。
 「掴まえたぜ。」
 手錠をされて不自由な手首を後ろから掴むと少女を引き倒す。スカートが翻って白い下着が丸見えになる。
 「また犯されたいのかっ。そんならやってやるぜ。」
 「やめてぇっ。犯さないで・・・。」
 少女は声を張り上げる。男はその言葉がまさかもう一人との間の合図になっているなどとは思いもしなかった。
 木の十字架の傍の祠から一人の影が進み寄ってくるのを、少女の下着を剥ぎ取ろうとやっきになっている男には気づく余裕はなかった。その男の首筋にスタンガンが当てられる。
 ビリビリビリッ。

スタンガン2

 青白い閃光が放たれるのと、男がもんどりうって倒れ込むのが同時だった。
 「やったわ。恵子っ。大丈夫。」
 「大丈夫よ。美鈴が言うとおり、手錠をしてたので男が油断したんだわ。作戦通り、こいつがパンツに手を掛けたところで『犯さないで』って合言葉を送ったのが絶妙のタイミングだったわ。こいつ、パンツを脱がすのに夢中になって、美鈴の事全然気づいていなかったから。」
 美鈴はすぐに鍵で恵子の手錠を外してやる。そしてそれをそのまま男の片方の手首に掛けると、すぐ傍の十字架になった樹の幹に通してからもう片方の手首にも掛けてしまう。
 「恵子。男のポケットを探って鍵を持ってないか確かめて。」
 「わかったわ。」
 恵子はぐったりしている男のズボンと上着のポケットを探ると、ふと思いついたように男のベルトを緩める。さっき慌てて穿いてきたらしく、前のチャックは降りたままだった。

美鈴

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