留守番 完結編



片手手錠洗面器

 二十二

 一晩何とか我慢しようと堪えていた美鈴だったが、自然の摂理に逆らうことは出来なかった。片手を伸ばしても届かない洗面器を脚をつかって手繰り寄せ、男が起きないようになるべく音を立てないようにしながらショーツを膝まで下ろすと洗面器に跨るのだった。しかしホーローの洗面器を叩くゆばりの音は、男がいつ起きるのではないかと思うくらいけたたましく寝室に響き渡ったのだった。

 翌朝、片手をベッドポスト脇の桟に手錠で括りつけられたままの格好で目を覚ました美鈴は絶対にこんな格好では眠れないと思っていたのに、何時の間にかうとうとして朝を迎えてしまったことに愕然としていた。ふと母親が寝ていた場所を見ると男の姿は既に無かった。男が居ないことが安堵感から催させてしまったのか、昨夜夜遅くに屈辱的な思いをしながらホーロー引きの洗面器にたっぷり放尿した筈なのに、もう既に尿意を我慢出来なくなっていた。自由な方の手でショーツを膝まで引き降ろすと、半分ほど自分の尿が溜まっている洗面器に再び跨らざるを得なくなっていた。こんな姿を男に見られたくないと念じつつ何とか放尿を済ませた美鈴は急いでショーツを引き上げ、チャポン、チャポンと液面の揺れる洗面器を脚で自分より遠い方へ押しやるのだった。

 男は美鈴が目覚めて暫くしてから寝室へやってきた。無言で美鈴の前に置かれた洗面器の中身を覗きこんでいる。美鈴は恥ずかしさに俯いてただ堪えているしかなかった。
 男はベッドの鉄枠に嵌められた手錠の片側を外すと、着ているものを全部脱いで全裸になるよう命じた。美鈴はもはや抵抗する気力もなく、言われるがままに服を脱いでいく。全裸になったところで、前夜と同じ様に白いエプロン一枚だけが渡さる。身に付けると再び前手錠に掛け直され首輪の鎖で牽かれて階下の厨房へと連れていかれるのだった。
 鎖の端が冷蔵庫の取っ手に繋がれると、男は美鈴に朝食を準備するように伝える。鎖に繋がれた範囲で届く電子レンジと食卓の端の間を行き来して美鈴は何とか男に朝食用の料理を温めて出す。
 男が朝食のパンと玉子料理を食べ終えるのを冷蔵庫の前に蹲って待っていた美鈴だったが、食べ終えたのを見届けると顔を上げる。
 「あの、学校は・・・?」
 美鈴のかぼそい声に男は食べ終えた皿から視線をあげる。
 「ん? 学校なら心配するな。お前の親友に休みの届けを担任に出すように言ってある。」
 そう言って、何時の間にか持ち出している美鈴の携帯を翳して見せるのだった。
 「私の親友って・・・。」
 「こいつ、恵子っていうんだろ?」
 男が今度は美鈴の部屋から持ち出したらしい一枚の写真を翳して見せる。

美鈴

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