留守番 完結編 第二部
五十一
(あ、先生っ・・・。)
思わず声を出しそうになるのを必死で堪える。壁に打ち込まれた鎖付きの手枷を嵌められた井上先生の後姿が目に入ったのだ。その背中に向かって男が長い鞭を振り上げていた。
ヒューン。ピシッ。
「あうっ・・・。」
その姿を覗き見していた美鈴は妙なデジャブ感に襲われる。何時か見た光景だった気がしてきたのだ。
(そうだ。この孔から子供の頃、確かに父親に鞭打たれる母の姿を見たんだったわ。)
いけないものを見てしまったと子供心に記憶に蓋をしていた映像が蘇ってきたのだった。
封印していた筈の子供の頃の記憶が鮮明に呼び覚まされると、もうそれ以上見ていることが出来なかった。美鈴は孔から目を離すと、すぐ後ろに控えている恵子の方を向いて唇に人差し指を当てて声を出さないように合図してから孔の場所を恵子に譲る。
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