留守番 完結編



階段吊り

 十九

 男が居なくなって、自分独りしか居ない玄関ホールは静まり返っている。ホールの中央には相変わらずペニスを生やしたダビデ像が据え置かれている。ちょうど美鈴のほうからは背中しかみえないので、卑猥な性器を目にせずに済んでいたが、男性裸像を模ったものは裸の尻をみるだけでも恥ずかしいものなのに、背中側でよかったと思わずにはいられない。
 男は両親の寝室から夜の営みに使っているらしい小道具やビデオを探り当てていた。更には地下室に設えられている折檻部屋のような場所まで探り当てている。男に勝手に家探しされたらこの先、どんな恥ずかしいものを探り出されるのか考えただけで怖ろしかった。いや、自分の親がそんな恥ずかしいものを隠し持っていたと知らされることが怖ろしかったのかもしれない。

 男が戻って来た時、男が手にしているものを見て美鈴ははっとする。自分の部屋に置いてあった筈の携帯を持っていたからだ。
 「ほう、何時の間にパンティを穿いたんだ?」
 男に言われて慌てて膝を折り畳む。片手をずっと上に挙げていなくてはならず、無理な姿勢で疲れてくるので、つい脚を崩していたのだ。スコートがあまりに短いので、膝を立てていると男のほうからパンツが丸見えになっていたらしい。
 「私の携帯なんか持ってきて、どうしようっていうの?」
 「いろいろ調べることがあるからな。まずは暗証番号を教えて貰おうか。」
 「嫌よ。そんなの、教える訳にはゆかないわ。」
 「ほう? また素っ裸になりたいって訳だ。」
 男はそう言って何とか脚を折り曲げて下着を隠しているスカートを捲り上げようとする。
 「や、やめて。待って・・・。い、言うわ。8・2・0・3よ。」
 「ふうん・・・。パン、ツー、マル、ミエ・・・だな。そうだろ?」
 以前に女友達から教えて貰った手のサインの隠語から思いついた暗証番号だった。まさか男がそんな事を知っているとは思わなかった美鈴は何でも知っている男に舌を巻く。
 「おう、開いた。開いた。」
 男が勝手に電話帳を調べていくのを、いまいましそうに見守るしかなかった。
 「まずは、お前の母親だな。父親の方は帰ってくるのは三日後だとお前の母親の部屋のカレンダーに書いてあったからな。おっと、これか。」
 「ママにどうしようって言うの?」
 「まずは何時帰ってくるつもりなのか訊くんだ。そして、こっちは大丈夫だから暫く帰って来なくてもいいって言ってやんな。」
 「私に電話させるつもり?」
 「ああ、ちょっとでも変なことを口走ったら電話をすぐ切って首を絞めるからな。」
 そう言いながら男は持ってきた細い縄を美鈴の首に巻きつける。片手を繋がれている美鈴には防ぎようがない。
 「スピーカーホンにしておくからな。いいな。」

美鈴

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