留守番 完結編 第二部
三十六
電話が終わると男は美鈴を縛ったまま、今度はもう一つの屋根裏部屋に監禁しておいた恵子の方へ向かった。服を全て剥ぎ取ると、午前中に美鈴にしたのと同じ様に恵子を屋敷の裏庭に全裸のまま連れ出し、同じ樹に恵子を磔にしたのだった。
「嫌っ、何を塗りたくっているの?」
「お前の親友が昨夜洩らしたおしっこだよ。やぶ蚊がその匂いに引き寄せられるのさ。」
「え? どういう事?」
「ふふふ。今にわかるさ。それじゃあな。井上先生がもうすぐ来るんでその準備があるんでな。おっと、変な声を挙げないように猿轡はさせてもらうぜ。」
男はそう言うと、さっきまで美鈴にしていたのと同じ手拭を恵子の口に嵌めて声を出せなくするのだった。
ピン・ポーン。
門に設置されたインターホンのボタンを押した薫は、教え子の美鈴が出てくるのを待つ。しかし、返答は意外にも男性の声だった。
「井上薫先生でしょうか。」
「あ、はい。美鈴さんの担任をしております井上と申します。様子を覗いにお邪魔したのですが。」
「美鈴お嬢さまから伺っております。今、解錠しますのでそのまま門をお通りください。あ、私はこの家の執事を仰せつかっている者です。」
噂には聞いていた教え子の美鈴の屋敷だったが、あまりの大きさに驚愕していたうえに執事まで居ると聞いて、身構えざるを得なかった薫だった。
(恵子さんは美鈴さんが独りっきりで在宅だと言っていたのに、執事の方がいらっしゃったとは。それにしても、今時執事が居る家だなんて・・・。)
そんなことを考えながら、門の外から遠くに見えた屋敷に向かってアプローチをとぼとぼ歩き始めた薫だった。放課後寄ると言っていた仲良しのクラスメートの恵子が来ていない、たった独りで留守を任されていると聞いていたのに執事が居るという話、自分が聞いていた事があれこれ食い違っていることに不審感を抱きながらも、教え子の美鈴の事が心配で早く顔を見て安否を確認した上で、安心したいと思う薫なのだった。
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