妄想小説
女敏腕警護官への逆襲
九
先ほど受けた正拳突きを男の腹に食い込ませると、二発目を待つこともなく男は動かなくなった。
あまりゆっくりしている余裕はなかった。男たちが目を覚まして回復してくる前に大臣を安全な場所まで逃さなければならない。悶絶している男たちを独りずつ男等が道を塞ぐように停めていた車の傍まで引き摺っていくと手錠を二つ使ってドアハンドルに潜らせた手錠の片側ずつに男二人の片手ずつを繋いでしまう。四人の男がワゴン車の両側のドアハンドルに繋がれることになる。その上で男たちのポケットを探り、免許証と携帯電話を取り上げる。
冴子が車に乗り込んで調べてみると、車は実際にはパンクはしていない様子だった。ちょっと乱暴だったが冴子は車のエンジンを掛け、大臣を乗せた車が通過出来るようにドアハンドルに繋いだ男たちを引き摺りながら車を道の真ん中から端に移す。
車からキーを抜き取りポケットに入れると、落ちていたナイフを拾いあげて男たちが追いかけてこれないように、パンクしていないタイヤを四輪ともナイフを突き刺してパンクさせてしまう。
コン、コン、コン。
大臣を乗せた車のボディに身体を引き寄せるようにして窓ガラスを叩くと、首を竦めてシートの下に隠れていた大臣がおそるおそる顔を出す。
「もう大丈夫です。ロックを解除してください。」
大臣が車のドアを中から解錠すると降りてこようとする大臣を手で制して中に留まらせる。
「大臣。すみませんが、少しの間だけ向こうを向いていてくれませんか。」
大臣が反対側を向いたのを確認すると半分だけ開けたドアに手を伸ばして冴子は自分のバッグを取り出す。中に入っているのは私服の替えしかなく、それはレザーのミニスカートだったが、パンティ一枚で車に乗るよりはよっぽどマシだった。
「もういいかね。」
冴子がスカートを穿き終えたらしい気配を感じた大臣がゆっくりと冴子の方に向き直る。男たちと格闘している間にスラックスを破り取られたのを大臣はおそらくは車の中から見ていた筈だった。
「助手席に移ってもいいかね。」
運転する冴子がミニスカートに穿き替えたせいだろうとは一瞬思った冴子だったが、特に断る理由はなかった。狙撃されたとしても用意した車の防弾性能は十分なものだ。後部座席のほうがより安全ということもなかった。
「大臣。その代わり、ちょっと飛ばしますのでしっかりシートベルトを締めておいてください。」
冴子が車をスタートさせ、繋がれた男たちの横を擦り抜ける際にも男たちはぐったりと気を喪ったままだった。
次へ 先頭へ