妄想小説
女敏腕警護官への逆襲
十四
「立て。」
男が命令口調でゆっくり言い放つ。
冴子は相手の様子を覗いながら、ゆっくり立ち上がった。身に纏っているのは一枚のタオルだけだ。眼の眩惑が治まって来ると声から薄々勘づいてはいたが男は一色と名乗っていた男だと改めて確認出来た。
「やっぱり貴方だったのね。だとすればやっぱり一色というのは偽名ね。」
「そんな事はどうでもいい。タオルをこっちへよこせ。こっちに放るんだ。」
男の命令は非情だった。冴子は従わない訳にはいかない。身体を隠すたった一枚の布切れも放棄せねばならなかった。タオルを男のほうへ放り投げる。本能的に、片手を股間にあて、もう一方の手で乳首を庇う。男の視線が痛いようだ。
「両手を挙げろ。」
男の命令は、冴子に恥ずかしい部分を隠すことを許してはくれない。男の視線が、冴子の上から下までを嘗めるように注視する。そして、黒い翳りの下半身の中心あたりにそれが必然的に釘付けになっている。
男は次に、冴子の足元に太い麻縄の束を投げ落とした。
(縛られるんだわ。)
その予感に冴子は身震いする。
「その鴨居に縄を掛けろ。」
男に命じられるまま、冴子は足元の縄の束を拾い上げ、その端を取って、頭の上の太い梁にロープを掛けた。
冴子の入っていた露天風呂は、湯殿全体を覆うような格好で東屋の格好をした屋根で覆われていた。四隅に太い柱があり、その柱と柱の間には太い角材が梁のように渡してある。その梁に縄を渡したのだ。それは冴子自身が、そこに吊り下げられることを意味しているのは間違いなかった。
「縄の端に、巻き結びの環を作れ。要領はよく判っているはずだ。そして右の手首をその中へ通せ。」
男の指示は適確だった。巻き結びは、手を縛る際に、最も効率よく相手の手首を拘束するやり方だ。勿論、冴子もその辺は訓練されている。もがけばもがくほど締まってゆく縛り方だ。
冴子が片手首に縄を括りつけると、男は縄のもう片方を引き、一方の柱にぐるりと回してから反対側の柱にも一周潜らせてから適当な長さを取って巻き結びの環を作る。それを再び冴子の足元に投げる。男は冴子の自由を奪ってしまうまでは慎重だった。
冴子は作られたその環にもう一方の自由なほうの手首も入れるしかなかった。縄の端が再び強く引かれ、冴子は両手を万歳の形に東屋の屋根の柱に繋がれ、自由を奪われた。
男はそれでもまだ慎重だった。余った縄の端を今度は柱の下のほうに潜らせ、そこから環を作って冴子に足首を通すように命じた。足の自由も奪うつもりだったのだ。わかっていてももはや抵抗することは出来なかった。命じられるままに冴子は足首を縄に通す。更に縄はもう一方の反対側の柱にも潜らされ、そこから延びてきた縄の環に最後の自由な足も拘束された。
男が縄の端を引くに従って、冴子は両脚を外側へ広げざるをえない。大きく股を広げたところで、縄の端が固定された。もはや、冴子には相手に抵抗するどころか、身を守る何の術も許されない格好で固定されてしまったのだ。
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