妄想小説
女敏腕警護官への逆襲
二
一条冴子は警視庁公安が直轄する特任捜査官チームの精鋭の一人だ。特任捜査官チームが担当するのは、要人護衛、人質奪還、潜入捜査など多岐に亘るが、その任務も組織の存在も一般には知られることはない。そんな特任捜査官チームの中で、冴子はそのエースとして管理官たちからも信望が篤い。急遽降って湧いたナディア公国の外相間の非公式の密談での菱田外相の警護も当然のように冴子に白羽の矢が立ったのだった。
「貴方が一色数馬さんね。まあ、どうせ偽名なんでしょうけど。」
「それはご想像にお任せしましょう。今度の菱田外相の警護を担当される一条冴子さんと杉本雄太さんですね。」
冴子が杉本を伴って一色に逢ったのはとある都内のホテルのロビーだった。
「どうして日本人の貴方がナディア国のエージェントなんかを?」
「正確に言えば私は日本人ではないのでね。国籍はという意味ですが。国籍が日本にあると何かと情報が洩れやすいのでね。私みたいな商売をしているとそれが命取りになりかねない。」
「なるほど。それで海外を渡り歩いて傭兵みたいなことを。」
「今回の外相同士の警護にエージェントとして頼まれたのも、ナディア公国で傭兵として働いていたことがあって、その時の仕事ぶりが評価されたようです。」
「ナディア国では知れ渡っていると?」
「軍部の方に限ってですが。ちなみにあちらでは私はミスターZと呼ばれています。まあ、最後に頼りになる男って意味ですかね。」
「ミスターZね。で、貴方は向こうの国務大臣についてなくてよろしいの?」
「ああ、日本に来るまでは軍部が全て取り仕切ってますから。こっちの大臣は軍用ヘリで自衛隊駐屯地の飛行場を経由して現地に向かう手筈になっているのでね。マシンガンを持ったMP(軍部警察)に囲まれて移動しますからね。」
「なるほど。日本じゃ考えられない警備方式ね。」
「私は日本側の警護の人達との連絡係という訳です。コミュニケーション不足による連携の齟齬があってはならないのでね。」
「そうですか。わかりました。お互い協力しあって万全を期しましょう。」
「こちらこそ。宜しくお願いしますよ。」
翌日の官邸からの出発に備えて一旦、一色とは別れた冴子と雄太だった。
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