妄想小説
女敏腕警護官への逆襲
三十九
車が峠に差し掛かった時だった。
「杉本君。ちょっと停まってっ。あそこっ・・・。」
一色が指差したのは峠に面した山の急斜面だった。
「あれっ、一条捜査官に似ているような気がするんだが・・・。」
一色が指差す方向には遠目ではっきりはしないが、目隠しを着けさせられ口にはボールギャグを嵌めさせられた女性が後ろ手に縛られて樹に繋がれているような様子が見て取れる。しかもその女性が身に着けているのはまさしく冴子が大臣を別荘まで送り届けていた際に纏っていた服に間違いなかった。
「あっ、一条先輩っ・・・。」
「どうする。敵の罠かもしれないぞ。」
「わ、分かっています。でも先輩を見捨てていく訳にはいきません。」
「大臣を独りここに残す訳にはゆかないぞ。」
「そうですよね。一色さんはここに残っていざという時には運転を代わって大臣を送り届けてください。先輩の救出には私が独りで行きます。」
「充分気をつけるんだぞ、杉本君。」
「大丈夫です。任せてください。」
雄太は胸のホルダーのオートマチック拳銃の装填を確認すると車を停め、身を屈めながら冴子とおぼしき女性が繋がれている場に密かに近づくのだった。
「冴子先輩・・・。僕が今度は貴女を救い出しますからね。」
雄太が至近距離まで近づいた時だった。
「うう、うう、ううっ・・・。」
何か言おうとしているのだがボールギャグを嵌められていてまともに喋れない様子だった。その時、ガサッと近くの草むらが動いた。さっと振り向いた雄太には拳銃を手にした四人の男たちが周りを囲んでいるのに気づく。
咄嗟に身を木の陰に飛び込みながら、銃を発射した雄太の弾は一人の男の拳銃を弾き飛ばした。射撃には自信を持っていた雄太だが、相手の数が多過ぎた。藪の中に身を隠しながら相手の様子を窺っている雄太に男の声が聴こえた。
「この女がどうなってもいいのか?」
何時の間にか男の一人が樹に繋がれているらしい冴子の喉元に銃を当てていた。
(しまった・・・。)
「どうする? それでもまだ撃ち合いをする気か?」
その時、遠くで大臣を乗せた車のエンジンが掛かり車がスタートする音が聞こえてきた。
(一色さんが大臣を連れてこの場を逃れたのだな・・・。)
大臣が無事に逃げおおせると判断した雄太は投降を決意する。
「わ、わかった。銃を降ろすから・・・。」
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