妄想小説
女敏腕警護官への逆襲
十三
(しまった。)思わず、突然現れた黒い物体を凝視してしまったのだ。しかしそれはカメラに使うストロボだったのだ。冴子が凝視した瞬間にそれが焚かれ、一瞬目が眩む。片手にタオルを胸元にあて、もう片方の手でリボルバーを引き出しながら、湯から転げあがるように冷たいタイルの床に身体を回転させる。
「無駄だ。冴子。そのリボルバーには弾は入っていない。」
脱衣所の蔭から出てきたらしい男が言い放った。まだチカチカする目で、なんとか手許の拳銃の弾装をみやる。目がようやく慣れてくると、空の弾装の孔が確かに見えてくる。
カラカランと音がした。男が目の前に弾を撒いたのだ。確かにそれは冴子の拳銃に入っていた筈の弾のようだった。冴子はゆっくりと回転する弾装を横に外してみる。男の言うとおり、弾装には一発の弾も入っていなかった。
ガチャリと音をたてて、冴子は役に立たないリボルバーを冷たいタイルの床に置く。片手はしっかりタオルで身体を包み隠すように押し付け、まだはっきり見えない目に片手をかざして男のほうを見る。男の手には、間違いなく弾が装填されているであろう拳銃が握られている。
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