一撃打ち倒し

妄想小説


女敏腕警護官への逆襲



 四十五

 足枷が両脚を広げた格好で冴子の足首を繋いでいるので、その場から自由に動くことは出来ない。しかし両手はまがりなりにも自由になったのでかろうじて届く男の身体に手をやって自分の方へ引き寄せると男のポケットを探る。手錠と足枷の鍵はすぐに見つかった。その鍵で片側に残って嵌められた手錠を外し、足枷からも足首を抜き取ると急いで気絶している若い男の両足首を足枷で繋いでしまい、両手を後ろ手に手錠を掛けてしまう。
 (急がなければ・・・。)
 取り敢えず布切れ一枚を腰に纏っているだけの格好だったので、朱美という女の着替を探してみることにするのだった。

 「き、君っ。さっきのは我が国の公安の捜査官たちではなかったのかね。」
 「そうです、大臣。」
 雄太が一條冴子を救出に行くと言って出ていった後、銃声がした直後に一色が車をスタートさせたので、大臣は気になって運転している一色に訊ねたのだった。
 「大丈夫だろうか、あの二人?」
 「ご心配はありません、大臣。彼らは優秀な公安の捜査員です。そう易々と連中にやられるようなことはないでしょう。しかし、ここはまず大臣を安全な場所にお連れするのが我々の役目ですので。」
 「安全な場所? 官邸に帰るのではないのかね。」
 「どうも、奴等はこちらの動きを察知している様子です。このまま私と大臣だけで単独で動くのは危険過ぎます。まずは安全な場所に一旦待避し、応援を待ちましょう。」
 「そんな安全な場所があるのかね?」
 「一応、事前に何箇所か待避所を用意してあります。大臣にはそこで一旦避難して貰ってその間に私が応援を呼びますので。」
 「そうか、分かった。君に任せよう。」
 こうして菱田外務大臣はまんまと拉致されてしまったのだった。

 一色とその仲間たちがアジトとして使っている山荘を捜索して、冴子は取り敢えず朱美のものらしい下着とジャンプスーツを身に纏う。武器保管室らしき場所には冴子の奪われたリボルバーとそこから抜き取られた弾が置いてあった。リボルバーに弾を込め直すと、冴子はホルスターで銃をジャンプスーツの上に装着する。手錠も幾つか置いてあったので、それもポケットに収める。
 雄太に連絡を取りたいのだが、連絡手段はみつからない。それに迂闊に連絡を取ると敵の仲間に傍受されてしまう惧れがあった。一色が大臣の別宅に現れ冴子を拉致した以上は、敵の何人かがこちらの警備隊の中に紛れ込んでいる惧れは多分に考えられたからだ。
 やがて山の中を近づいて来る車のエンジン音が聞こえてきた。冴子は急いで山荘の二階に上がり、窓から近づいてくる車の様子を窺う。車は冴子が大臣を別邸まで送り届けた装甲車まがいの外国製ワゴン車だった。
 (あの車が使われているということは、雄太が大臣を乗せてきたのだわ。でも、もし乗っているのが雄太ではなかったとしたら・・・。)
 冴子の悪い予感は的中して、車から降りてきたのは一色と大臣の二人だけで雄太の姿はないのだった。一色は大臣を案内しているように見える。銃口を向けて無理やり歩かせているのではないところを見ると、大臣を待避させているように見せかけているのだろうと推測する。

 「大臣。地下に安全な部屋があります。そこなら狙撃される心配は無いでしょう。部屋は安全の為に施錠させて頂きますが、安心してください。応援が来るまでの間だけですので。」
 「そうか。分かった。」
 一色は大臣を地下の窓の無い部屋に避難と称して閉じ込めると外から鍵を掛けてしまう。大臣を逃げられなくしてしまうと、一色は監禁している冴子の様子を見にいくことにした。車の音が聞こえている筈なのに、留守番の見張りとして置いておいた若い手下が出迎えに来ないことに一抹の不安を感じていたのだ。
 冴子を監禁していた部屋に入った一色が見つけたのは磔にされている筈の冴子に代わりに足枷を咬まされ、後ろ手に手錠を掛けられて床にのびている若い手下の部下だった。すぐに胸の拳銃に手をやる。しかしその時には既に拳銃を構えた冴子が背後に迫っていたのだった。

saeko

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