全裸日本刀受取

妄想小説


潜入捜査官 冴子 第二部



 五十二

 「恭平。こっちを向きな。社長が車椅子の間は私が相手になってやるわ。」
 冴子は全裸のまま日本刀を手にすると、鯉口を切って白刃を見せる。
 「やっ、てめえ。何時の間に。」
 振向いた恭平は冴子が日本刀を手にしているのを見て、懐から短刀を取り出す。
 「てめえなんかにドスが使いこなせるのかよ。勝負してやろうじゃねえか。」
 恭平が短刀を持ち替えると、真っ直ぐ冴子の元に向かってくる。短刀を翳しながら冴子に飛びかかって行った恭平の身体をするっと交わすと、日本刀を鞘に納めその鞘を回転させて恭平の手から短刀を弾き飛ばす。更には鞘の先で恭平の胸元をどんと突くと恭平はもんどりうって倒れ込む。その喉元に収めた白刃を再び鞘から少し抜くと恭平の喉元に当てるのだった。
 「倫子さんが全部白状したよ。三島たけるを殺ったのはお前だってね。それを庇おうとした純子さんも後ろから刺したんだろ。」
 「ふん、俺の麻薬取引の邪魔をしやがるからだよ。」
 その遣り取りは車椅子の上の鬼源にも衝撃を与えていた。
 「たけるが殺られただと・・・。それも恭平に?」
 「ああ、そうだよ。奴はもう生きちゃいねえよ。オジキがあんな何処の馬の骨か分からない奴に鬼源組を継がせようなんか言い出すからいけねえのさ。」
 「たけるは儂の血を分けた倅だ。何処の馬の骨か分からんのは貴様の方だ、恭平。」
 鬼源が怒り狂って恭平に怒鳴る。
 「なあ、奈美、いや冴子さんよ。お前に俺が斬れるのかい。堅気のお前が任侠者に刃を当てれるっていうんならやってみるがいい。」
 恭平に居直られて冴子はうっと詰まる。さすがに潜入捜査官も正当防衛でもなければ日本刀で人は斬れない。
 「だったら、こっちが先に殺ってやるまでだ。オジキ、覚悟しろっ。」
 足でどんと冴子を突き飛ばすと、転がっていた短刀を手にして脱兎のごとく車椅子の鬼源の方へ走りだす。
 (危ないっ)
 そう叫ぶより先に、冴子の手から鞘に入れたままの日本刀が鬼源の方へ投げられる。

鬼源抜刀

 宙で刀の柄を掴んだ鬼源が目にも止まらない速さで居抜きをすると、白刃は向かってきた恭平に向って振り下ろされていた。
 「おいぼれと思って甘く見るんじゃねえぞ、恭平。」
 一太刀を浴びた恭平からは声も出なかった。代わりに声を挙げたのは何時の間にか座敷に入り込んでいた倫子だった。
 「恭平っ。畜生・・・。子供の仇よ。」
 倒れ込んだ恭平の手から短刀をもぎ取ると、そのまま倫子は鬼源の胸を深々と刺したのだった。全てはあっと言う間の出来事だった。

 藤崎の手によって戒めを解かれた雄太の要請で何台ものパトカーが鬼源興業を取り囲んでいた。社長と若頭を一気に喪った鬼源組の連中には最早戦う気力の残っているものは居なかったのだった。倫子はその場で殺人の現行犯で逮捕されていった。鬼源は息を引き取る前にぼそっとひと言だけまだ奈美だと思っている冴子に向って「ありがとよ」と口にしたのだった。

 完


saeko

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