妄想小説
潜入捜査官 冴子
十五
「社長、奈美姐さんをお連れしました。」
「おう、待っとったぞ。入れ。」
冴子が案内されたのは、社長の屋敷とされる日本家屋の廊下をずっと進んでいった奥座敷だった。
「失礼いたします、鬼塚社長。」
冴子を連れてきた運転手の部下に促されて襖を開くと、深々とした座椅子に座った鬼源の背中が見える。その鬼源がゆっくりと座椅子を回して冴子の方に向き直る。
「やっぱり儂が見込んだとおり、お前は和服になると一層艶っぽくなるようだな。聞いているぞ。店ではなかなかの評判だっていうじゃないか。」
「畏れ入ります。本日は旦那様に精一杯お仕えさせて頂きとうございます。」
「おい、お前等。もう下がっていいぞ。俺が呼ぶまでこっちには来なくていいからな。」
「しかし、社長。もし何かあると・・・。」
「こいつだったら大丈夫だ。ちゃんと身体検査もしているからな。ふふふふ。」
「そ、そうですか。わかりました、社長。失礼いたします。」
そう言うと、鬼源の用心棒らしい運転手は襖を閉めて下がって行く。足音が遠のいていくことで冴子はあらためて鬼源と二人だけにされたのを感じる。
「私は何をすればよろしいでしょうか。お酒でもお作りしましょうか。」
「いや、酒は手酌でやる主義なのでな。それより身体を見せて貰おうか。」
「身体・・・ですか? あの・・・。」
「男が見たい女の身体と言えば決まっとるだろう。」
鬼源の言葉に冴子は顔を俯かせて着物の裾を手繰り寄せる。
「着物の時は下着は着けないようだな。」
「ゆもじだけです。殿方の所へあがるにはそれが礼儀と心得ております。」
「ふうむ。いい心掛けだ。しかし、そこの手入れは不十分のようだな。邪魔なものが生えておるぞ。」
冴子は自ら露わにした股間の恥毛を指摘されるとは思っても居なかった。
「失礼いたしました。無い方がお好みでしたか。お望みであれば、今すぐにも落として参りますが。」
「いや、今日はもういい。今日は眺めるだけにしておこう。眺める分にはワカメがあるのも卑猥でそれなりに味があるからな。」
「ワカメって・・・。」
「なんだ。ワカメ酒を知らんのか?ワカメ汁に貝のむき身のおすまじゃよ。今度、若い衆が居る時に教えてやろう。もっともお前の身体でって訳にはゆかぬからな。店の若い娘を連れてきてやって見せようじゃないか。」
冴子は何を言っているのか確証は持てないものの、鬼源の顔つきから女性の身体を使った卑猥な事であるらしいのは予想がつくのだった。
「まあ、それはいいことにしてもっとこっちへ来て顔をよく見せるんだ。」
冴子は広げていた下半身の裾をさり気なく戻すと鬼源の前に傅くように正座する。源蔵の手が冴子の顎に伸びてくる。顔を上向かせるようにすると、お気に入りの小動物をいたぶるかのように手前に引き寄せる。冴子の目に源蔵の座椅子の後ろに麻縄の束がちらっと覗いて見えた。それを見透かしたかのように、源蔵が顎に当てた手を放すと、今度は冴子の手首をぐっと力を篭めて握ると自分の方へ引き寄せ、もう片方の手で背中の方にある荒縄の束を探る。
(縛られるっ・・・。)
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