妄想小説
潜入捜査官 冴子 第一部
二
「純子は・・・、いや桐島捜査官は確か暴力団関係の組織の内偵調査をしていると聞いていましたが・・・。」
「そうだ。鬼源興業という傘下に幾つか子会社を持つ、まあいわば土建業のようなものから大きくなった会社だが、そこが麻薬売買のブローカーのようなことに手を出しているという情報を掴んで、密かに内偵をしていたんだ。それがコンビを組んでいる杉本捜査官の方に三日前に最後の連絡が入った後、消息を絶ったのだ。」
「消息が途絶えた・・・? で、何処で?」
「山梨のかなり奥深い林道の中の工事現場の隅だ。その・・・。」
牧島が言葉を濁す。
「はっきり仰ってくださって結構です。」
「そうか・・・。わかった。発見された時はほぼ全裸状態の姿で木で組まれた十字架のようなものに磔にされていたそうだ。下半身には男性の体液の付着が認められたとのことだ。」
「凌辱されて・・・、殺されたということですね。」
「まだ詳しくは判らんが、おそらくそういう事だろう。最終的な死因は後背部から刃物状のもので刺されての出血多量によるショック死とみているようだ。」
「裸にされて、犯された上に、刺殺・・・ですか。内偵をしていたことがばれた・・・という事でしょうか?」
「それはまだ判らん。単なる性的欲望からの暴行の上での殺害かもしれん。何せ、君も知ってのとおり、彼女はかなりの美貌だからな。」
「ですが武術もかなりの腕前です。そう易々と男達の腕力でねじ伏せられるとも思えません。」
「私もそれは同感だ。性的暴力の痕は偽装かもしれない。いずれにせよ、身分がばれたことによる殺害なのかどうかはまだ判断はついていない。」
「牧島班長。私に純子の、いや桐島捜査官の内偵の任務を引き継がせてください。」
「いや、真行寺君。ちょっと待ってくれ。」
「班長が非番の日にも関わらず急遽私を呼んで話を聞かせたのは、その為だったのではありませんか?」
「確かに君がそう言い出すだろうことは勿論想定の上だ。だが急遽、君を呼んで話をしたのは、何処かから君が聞きつけて勝手に動き始めるといけないからだ。桐島君の身分が発覚して殺害された可能性も否定出来ない。そうなるとかなり危険な状況の上での任務と言う事になる。情報をまず入れたのは君が性急に動き始めないようにする為だ。」
「ではどうするおつもり・・・ですか?」
「まずは連絡を取っていた杉本捜査官からよく話を訊いてくれ。状況をよく掴んでから動き出して欲しい。何もするなと止めて、何もしないという君じゃないことはようく判っているつもりだ。」
「そう言うことですか。わかりました。すぐに杉本捜査官と連絡を取ります。」
冴子は上司の牧島に一礼だけすると、その場を辞したのだった。
次へ 先頭へ