妄想小説
潜入捜査官 冴子
二十
「ところで、君。あそこの毛はもう剃ったの?」
突然の谷亀の問いに冴子は戸惑う。
「あそこの・・・って?」
「惚けても駄目だよ。言ったろ。鬼源の社長との付き合いはもう長いんだから。社長の趣味だってちゃんと把握してんだよ。剃って来いって言われたろ?」
「えっ・・・。そんなの、内緒よ。ヒ・ミ・ツ・・・。」
「って事は、もう剃ってるんだ。なあ、教えてくれよ。女って、あそこ。剃っちゃうと余計に敏感になって感じやすくなるって本当?」
そう言いながら谷亀はスリットの中に忍び込ませた指の先をするっと上の方へ滑らせてなぞり上げて行く。
「あら。いやだわ、谷亀さんたら。そんな事、若い子に訊いたりしたら振られちゃうわよ。」
そう言いながらスリットの更に奥に指を滑り込ませようとする谷亀の手の上に両手をそっと乗せて抑えるのではなく包み込むように優しく掴まえると、声を少し低くして耳元に囁きかけるようにするのだった。その時、冴子は自分の背中側のボックスから男がすくっと立上ったのに気づいていた。店の女の子がさっと傍に寄ると何か耳打ちしている。そして二人で奥の方へ消えていったのだった。
冴子は両手で掴まえた谷亀の手を自分のスカートから振り解くように両手の中に包み込んだまま持ち上げて、胸元の方に引き寄せる。が、今度は胸元に手が伸びるのを許さないようにしっかりと両手の中に入れたまま離さない。
「純子さんて人にもこうやってお触りしてたんでしょ?」
「いやいや。それはないよ。だって純子は鬼源の大のお気に入りだったからねえ。そんなのばれたら出禁になっちゃうよ。」
「あら、社長さんでも鬼源社長は怖いの?」
「そりゃそうさ。鬼源の親分は女の事にはうるさいからなあ。手なんか出そうもんなら、あの・・・。あ、いや。何でもない。」
谷亀は何かを言い出そうとして途中で止めたのが冴子にもはっきり感じられた。その時、ボックスの向う側から及川の声が掛かったのだった。
「奈美さん。ご指名ですぅ。奥の12番ボックスへお願いしますぅ。」
及川の声に救われた形で奈美を演じる冴子はすくっと立上ると、そっと両手で握った谷亀の手をテーブルに置く。
「ごめんなさいね。またご指名なの。」
「あとでもう一回こっちへ来いよ。指名料ははずむからさ。」
名残惜しそうに見送る谷亀を後に、冴子はフロアを奥のほうへ進むのだった。
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