妄想小説
潜入捜査官 冴子 第二部
二十七
「おう、及川。ちょっくら邪魔させて貰うぜ。」
「あっ、これはこれは。お久しぶりです。さ、こちらへどうぞ。」
二人の子分を連れてクラブ・アンシャンテに入ってきたのは鬼源組の次期社長と目されている若頭の氷室恭平だった。
「あら、若頭だわ。」
「あ、いやだ。私、あの若頭。苦手なのよね。」
「え、そうなの。」
「だって、あいつらあんまり行儀がよくないのよ。」
「え、そうなの? わたしに来なきゃいいけど・・・。」
奥の方で噂しているのはフロアレディのキャバ嬢たちだった。
「えーっと、そうだな。サッちゃん。若頭たちに付いてあげて。五番ボックスね。」
及川がキャバ嬢たちを見定めながら声を掛ける。
「あ、来ちゃった。いやだなあ・・・。」
「しっ。聞こえるわよ、サッちゃんてば。」
「はあ~い。今、行きまあすぅ。サチでぇ~すぅ。お邪魔しますぅ。」
「なんだあ、おめえか。相変わらず、胸はぺちゃんこだなあ。」
「あーら、お生憎さま。スリムで可愛いねえって言ってよ。」
「おい、サチ。こっちへ来な。おっぱいがおっきくなってないか調べてやるよ。」
五番ボックスにやってきた最若手のサチの手を若頭の氷室が取ると無理やり自分の方へ引き寄せ、後ろから羽交い絞めにする。
「あ、駄目だったら。そんなとこ、触っちゃあ・・・。」
「おい、及川。いつもの酒、ボトルで持ってきな。なあ、サチっ。お前、胸は貧相だが脚は結構むっちりしてんだよな。」
そう言うと、逃げれないように背中から抱きつくように首を抑え込むと長いドレスの裾をするすると手繰り上げる。
「あ、嫌だあ。パンツが見えちゃうからあ・・・。」
「へっへっへっ。パンツぐれえいいだろ。サービスしなよ。」
「そうでぇ。な、サチ。若頭がそう言ってんだから、気前よくサービスしなっ。」
恭平に付いてきた子分の一人も調子にのって反対側からサチのドレスの裾を抓みあげると太腿の付け根あたりまで捲り上げてしまう。
「きゃっ。駄目だったらあ。」
その時、隣のボックスで谷亀社長の相手をしていた奈美こと冴子がすくっと立上る。
「谷亀社長、ちょっと待っててくださいね。」
谷亀社長の居たボックスを出ると、奈美は恭平らが通された五番ボックスに入る。
「サッちゃん。代わるわね。いらっしゃいませ。氷室・・・さんて、仰るのかしら。」
「ん? なんでぇ、お前。知らない顔だな。新入りか?」
突然入ってきた奈美に気を取られて恭平の腕の力が緩んだ隙に、サチは胸元を掻き寄せるようにしてボックスから滑り出る。
「奈美って言います。暫く前からこちらでお世話になっています。」
「ふうん、奈美って言うのか。こっちへ入んな。」
恭平が正面のソファを顎で示す。奈美が腰を掛けるや、両隣りに子分二人がさっと座ると両側から奈美の手首を取って抑え込む。
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