妄想小説
潜入捜査官 冴子 第二部
五十
奈美を残して座敷を出た猿蔵は、直ぐにその足でアンシャンテへ向かっていた。藤崎の事は鬼源が何度か屋敷に呼び寄せていたので顔は見知っていた。藤崎の方でも猿蔵にすぐに気づく。
「そうすると、奈美さんは鬼源興業の本社に拉致されているというのか。」
猿蔵の話に事態をすぐさま理解した。そしてそのまま猿蔵と共に鬼源興業の本社に向かったのだった。
藤崎が鬼源社長に案内を請うと、鬼源組の者は通さない訳にはゆかない。静養中ということでいつもの座敷とは別のベッドのある洋室をあてがわれていた源蔵は自分が私立探偵として雇っている藤崎竜也を迎え入れる。
「こちらに奈美さんが監禁されているのはご存知でしたか?」
「奈美が? どういう事だ。何も聞いておらん。そう言えば退院した朝、皆の衆と一緒のところを見たがそれ以来挨拶にも来ぬのでおかしいとは思っていたのだ。」
「じゃ、奈美さんから三島たけるについても何もお聞きになっていないのですね。」
「奈美がたけるの消息を知っているというのか。」
「ああ、ええ・・・。」
まだ聞かされていないと知って竜也は言葉を濁す。
「猿蔵っ。奈美が居るとしたら、何処だと思う?」
「はいっ、大広間かと。」
「おい、車椅子をすぐに用意しろっ。行くぞ。」
鬼源は仕えている女中に車椅子を用意させるのだった。
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