赤褌締め

妄想小説


潜入捜査官 冴子 第二部



 四十五

 「こ、これは・・・。」
 冴子は自分の裸の股間に巻かれていく赤い褌を見て、何処かで見た記憶があるのを思い出したのだった。
 (これは、純子が発見された時の格好と一緒だわ。あの時、鑑識医に見せて貰った現場写真の純子の姿・・・。)
 思い出してくるとだんだん鑑識医の言葉が蘇ってきた。
 (後背部からの鋭利な刃物による刺し傷からの出血死には間違いない・・・。下腹部には多量の男性精液が認められている・・・。膣内からは精液は検出されていない・・・。確かそんな事を言っていた。あの時はどういう状況かよく判らなかったのだわ。)
 「ジロー、マサっ。アンタらはもう用が済んだから廊下に戻って見張りを続けなさい。」
 「へい、判りました、姐さん。」
 ジローとマサが倫子に言われて座敷から出て行く。倫子と二人きりになった冴子は、さきほど恭平が洩らした言葉も思い出した。
 (もっとも殺っちまうつもりはなかったんだが・・・。情報を流した奴を庇おうとして代わりに刺されちまった・・・。お袋が後始末はしとくって言ってた・・・。あれって、つまり・・・。)
 だんだん冴子には純子が殺害された時の様子が見えてきたのだった。
 (純子は三島たけるから情報を得ようとして近づいていった。そして取引の時間と場所を聞き出したんだわ。でもそれを恭平等に感づかれて三島が刺されそうになった。それを庇おうとして代わりに後ろから刺された。そういう事だったのね。だから裸で吊るされた時に手首には生体反応がなかった。それに下半身に精液を浴びた後があったのに膣内からは検出されなかった。あれは純子が性的暴行を受けてそれが原因で死んだと偽装する為だったのね。何故、そんな事を・・・。)
 冴子は目の前の倫子に確かめてみることにした。
 「貴方、純子にこの赤い褌と同じものを締めたでしょう。それももう亡くなってしまってから。それは凌辱されて殺されたと思わせる為ね。わざわざ精液まで下半身に掛けて。殺したのは恭平でしょ。そして三島たけるも。彼がそう言ってたわ。そして後始末をしたのは貴方だって・・・。」
 「今更なによ。そんな事。どうでもいい事だわ。」
 「貴方、三島たけるが鬼源の落し胤だって知ってたのね。それで恭平が三島たけるを殺めたことを鬼源に知られるといけないと思って凌辱で殺されたと偽装したんだわ。」
 「そうよ。恭平は三島たけるが何者かは知らなかったからね。どうせアンタも始末するつもりだから冥途の土産に教えてやるわ。あの鬼源って奴は私という妻がありながら、美沙なんて何処の馬の骨か分からないような売女に落し胤を遺したのよ。鬼源が探偵を雇って三島の出生を調べ始めたもんだから、発覚する前に始末しようとしたのよ。そしたら都合よく純子って奴が三島を使って恭平の凌ぎについて嗅ぎ回り始めたんであの子に三島共々始末させたのよ。」
 「もしかしたらアンシャンテに刺客を送ったのも倫子さん、あなたね。」
 「そうよ。ライバルの龍虎組の仕業と思わせるようにね。それも上手くゆかなかったので今度はマサを襲わせて龍虎組の仕業と思わせようとしたのに。」
 「鬼源から、本当に龍虎組のやった事か確かめるまでは手を出すなと鬼源が言い出した。」
 「そうよ。三島は始末したけど組を恭平には譲渡さないなんて言い出しそうだったからあの鬼源も龍虎組の仕業と見せて始末するつもりよ。」
 「そこまで企んでいたなんて。」
 「ふん。もうアンタもお終いよ。今は生かしておいてやるからひと晩、地獄の苦しみを味わうがいいわ。その上で処刑してやるっ。」
 そう言い捨てると倫子も部屋を出ていってしまうのだった。

saeko

  次へ   第二部 先頭へ




ページのトップへ戻る