妄想小説
潜入捜査官 冴子 第二部
二十九
「ほう、それで恭平に逢ったという訳だな。」
いつもの様に人払いをして座敷に鬼源と二人きりになると、奈美は縛られながら鬼源に氷室恭平に逢ったことを話すのだった。
「社長の息子さんだと仰っておられましたわ。」
「倅か。そうは言っても血は繋がっとらん。一応、組は任せてはおるがな。」
「一応・・・? 鬼源組の凌ぎはそれじゃ恭平さんが・・・?」
「ああ。組の凌ぎはあいつに任せてある。だが、まだ跡取りにするとは決めておらんのだ。」
「社長はまだお元気そうですものね。」
「いや、そういう意味ではない。儂だって持病があるのでな。いつどうなるとも知れん。もう後継ぎは決めておかねばならんのだ。ふむ。今日はちょっと趣向を凝らして柱に繋いでみようかの。」
「あ、そんな・・・。」
柱に繋がれた奈美は足首に巻かれた別の縄で片足を持ち上げられていく。脚が次第に開かされて恥毛を失ったすべすべの陰唇が露わになってしまう。
「さあて、今日は指と舌とどっちでイカされたいんじゃ?」
「あ、いやっ。そんな。恥ずかしいっ・・・。」
「もう身体があの愉悦を憶えておるようじゃな。嬉しそうな顔、しおって。」
片足を吊られて大きく割り裂かれた股の付け根を鬼源の指がそっとなぞりあげると、奈美は堪らず身体を震わせてしまう。
「ああっ・・・。駄目っ、そこは。感じてしまうわ。」
鬼源が指の先を鉤型に曲げて、つるつるの陰唇に滑り込ませようとしたその時だった。
「済みません、社長。大変なことが・・・。」
締め切った座敷の向う側から只ならぬ雰囲気の大声が響いてきたのだ。
「儂がこの座敷に奈美と居る時は近づくなと言ってあったろう。後にせい。」
「で、ですが・・・。マサの奴が滅多打ちにあって。どうも龍虎組の仕業らしいんです。それで若い衆が騒いでいまして。」
「龍虎組だと?」
その名前を聞いて鬼源の手が止まる。暫く空を睨むようにして考え込んでいたが、鬼源が奈美の背中側から真正面に向き合うように顔を合わせる。
「しばらくこのまま待っていてくれんか。ちょっと縄を解いている時間がない。すぐ戻ってくるでな。」
「え? このままで放置されるのですか・・・。」
冴子は先ほどの会話で氷室恭平がやっているらしい凌ぎの話を鬼源の口から話させるきっかけを掴みかけていた。それは純子の掴んでいた真相に繋がるかもしれないのだった。
「わかりました。このまま待ちます。ですから、必ずすぐ戻ってきてくださいね。」
「ああ、わかった。ちょっとの間だ。このまま待っておれ。」
そう言うと襖を外に居る者たちに見えないように少しだけ開いて座敷の外に出るとすぐにぴしゃりと閉めてしまう。
「他の者たちは何処におる?」
「向こうに今、集まっております。どうか、早く。」
複数の足音が早足で立ち去っていく音が縛られて片足を吊られている冴子の耳にも聞こえてきたのだった。
(今度こそ、鬼源にイカされるのではなくイカされたことを装って正気を保った上で鬼源組が何を資金源にしているのかを聞き出さねばならないわ。)
そう心に固く決意を新たにして鬼源を待つ冴子だった。その冴子に今では聞き慣れたものとなった鬼源の足音とは違う微かな音が近づいてくるのに冴子は気づいたのだった。
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