妄想小説
潜入捜査官 冴子 第二部
五十一
鬼源社長の屋敷の大広間では将に宴会が始まろうとしていた。その余興として座卓が並ぶ宴席の真正面に冴子が全裸で吊るされていた。冴子をいたぶりながら酒を呑もうという趣向なのだった。酒の席の最後には鬼源組の若い衆全員に冴子がマワされることになっており、経験の少ない若い者たちは待ちきれずに興奮気味なのだった。そんな場所へ車椅子に乗った鬼源社長が突然現れたのだった。
「お前等、ここで一体何をしておるのだ。」
鬼源社長が一喝すると、座はしいんと静まり返る。
「おい、恭平。お前か。この場を仕切っておるのは。どういう事だ。説明せい。」
「お、オジキっ。これは・・・。いや、その・・・。」
「儂はまだくたばっとらんぞ。儂の眼の黒いうちはこの鬼源興業で勝手な真似はさせんぞ。」
「ちっ、また説教かよ。」
最初は小声で文句を言おうとしていた恭平だったが、ここは決着を付けるいい場かもしれないと思い返すと声が大きくなる。
「なあ、鬼源のオジキよ。いつまでも社長気取りかよ。もういい加減引退したらどうだ。いつまでもオジキの時代じゃないんだぜ。しみったれた土木開発ばっかりやってたって鬼源組が続いていける凌ぎは稼げないんだぜ。いい加減、俺の言う事を聞いたらどうだい。」
「麻薬に手を染めることか? それは俺が生きてる限り許さん。」
「そんな事、いつまでほざいているつもりだ。もう時代は俺様の番なんだぜ。」
恭平がゆっくりと鬼源に詰め寄っていき、顔を合わせて睨みあう。一同はどうなることかと固唾を呑んで見守っている。その隙に座敷の奥から現れた藤崎竜也が隅に置いてあった奈美の日本刀を取り上げるとすっと奈美の後ろに回って束縛していた縄を切り落としていた。
冴子の両手を自由にすると、手にしていた日本刀を冴子に渡し(後は頼んだよ)とばかりにウィンクしてみせる。
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