妄想小説
潜入捜査官 冴子 第一部
十一
フロアの照明が一旦暗くなって、スポットライトが店の奥に当てられると一人の黒服が照らしだされる。
「皆さま、本日もアンシャンテをご贔屓にいただきありがとうございます。今宵、アンシャンテは新しいフロアレディをデビューさせて頂きます。奈美さんですぅ。」
フロアの逆の端にスポットライトの光が移される。そこへすっと登場したのは紹介された奈美だった。フロアじゅうに拍手喝采が沸き起こる。
奈美は後ろに長く裾を引き摺るロングドレスだが前はミニ丈で太腿を惜しげもなく露わにした姿で颯爽と現れた。店に居たフロアレディたちでさえ息を呑む妖艶さだった。
「さあさ、奈美さん。1番ボックスがこの店一番のご贔屓、豊山モータースの豊山社長のところへまずはご挨拶に。」
「ええ、わかりました。」
奈美がしずしずと一番ボックスに進んでいくと、既に豊山社長は相好を崩している。
「奈美ちゃん。さ、ここへ。」
社長は自分のすぐ隣の席を既に傅いていたキャバ嬢を横に除けさせて招いている。
「失礼します。豊山社長さま。」
「まずはシャンパンで乾杯だ。アンシャンテの新しいナンバーワンに。」
「カンバーイ。」
愛想を振りまきながらシャンパングラスを挙げた奈美は、社長の口から「ナンバーワン」という言葉が出たのにキャバ嬢たちの顔が一瞬引き攣ったのを見逃さなかった。
「純子ちゃんが居なくなって残念だけど、奈美ちゃんが来てくれたんでこの店も安泰だねえ。」
社長の言葉に桐島純子が源氏名にも同じ名前を使っていたことを知る。
「あら、純子さんてどなた?」
奈美はさりげなく社長の言葉を引き継いで純子について探りをいれる。
「ああ、わたしのお気に入りの子だったんだけど店、辞めたそうなんだ。な、そうだろ?」
社長が隣のキャバ嬢に確認するが、振られたキャバ嬢は言いにくそうに俯いている。
「じゃあ、純子さんという方に代わって、精一杯奈美がサービスさせて頂きますわ。さあ。社長さん。お代りをどうぞ。」
その時、フロアの奥の方から下卑た大声を出す男が居た。
「あれえ。新入りの奈美ちゃんは何処行ったあ? 歌とか踊りとか、何か出来るだろ。ちったあ何か芸を見せてみろやあ。」
奥の方の5番ボックスから早々と酔っぱらったらしい男が大声を上げたのだった。
「金貸しの親爺よ。谷亀って言うの。無視してていいのよ、奈美ちゃん。酔うと始末が悪い奴だから。」
同じボックスに控えていた朱美が少し離れたところから冷たく言い放つ。
「いいわ。大丈夫よ。」
奈美はボックスからすくっと立上ると、フロア中央のステージの上にのぼる。スカートの後ろのホックを外しと長く垂れ下がっていたロングの裾をさっと取り外す。ぴたっと身体にフィットしたミニから魅力的な太腿がお客たちの目に露わになる。
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