潜入捜査官冴子

妄想小説


潜入捜査官 冴子 第一部



 一

 警視庁捜査Z係の真行寺冴子は突然、上司の牧島哲司に呼び出された。その日、冴子は本来なら非番で牧島から声が掛かることなど無い筈だった。そんな冴子に牧島がじきじきに電話を掛けてきてZ係の詰所に来て呉れという。電話で内容を告げないにはよくよくの事に違いないと冴子は嫌な予感が胸の内に広がるのを抑えながら牧島の元へ向かったのだった。
 「済まない。休みのところを・・・。実は内々に直接伝えたい事案があるのだ。」
 「そういう事情だろうとは思って参りました。」
 「桐島純子君とは以前コンビを組んでいたよね。」
 「桐島が何か・・・。」
 冴子は目の前の牧島の表情を読みながら、嫌な予感が益々高まるのを感じる。
 「彼女が遺体で発見された。」
 「遺体・・・で、ですか?」
 「ああ、残念だが間違いない。三日前から連絡が取れなくなっていてな。それで密かに各地の所轄に内々に捜索手配を掛けていたんだ。そしたら今朝早くに山梨県警の所轄から不審死の遺体が発見されたと一報が入って。すぐに照会したところ、本人に間違いないと確認が取れた。勿論、すぐに箝口令が敷かれて一般マスコミ等には事件発生そのものが伏せられている。」
 「純子が・・・。あの純子がですか。」

純子

 俄かには信じられない冴子だった。

 警視庁には殺人等を扱う捜査一課、暴力団関係を扱う捜査二課等々、役割任務によって課が分けられ数字が振られて、捜一、捜二などと略して呼ばれている。しかし冴子等が所属するZ係は課組織ではなく、通常は番号が振られるところをアルファベットの最後の文字が振られている。そればかりか一般の警視庁名簿にもその存在は記されていない。警視庁の内部でも極僅かしかその存在が知られていない特殊任務を遂行する部隊なのだ。桐島純子はそのZ係に久々に配属された新人だった。同じ女性であることから新任捜査官の教育係には冴子が指名され、暫くコンビを組んで一緒に仕事をこなしてきていた。
 桐島純子は一見お嬢様育ちといった風の愛くるしいか弱そうな女の子といった容姿なのだが、冴子は初めて観た時からその可愛らしい顔立ちの奥に鋭い眼光が潜んでいるのを見抜いていた。おとなし気に見える表情からは想像できない度胸と執念深さを兼ね備えていて、特殊捜査官の天性を持っていることが冴子には最初から判っていたのだ。その冴子の指導の元で純子はどんどん頭角を現し、半年も経たないうちに冴子の指導は不要になった。それどころか新人の男性捜査官を部下に従えるまでに成長していたのだった。

saeko

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る