妄想小説
深夜病棟
九
「樫山さあん。桂木千春でーす。今日の昼間の担当になりまーす。」
そう言ってワゴンを押して入ってきたのは、見るからに神藤看護師よりも更に若い元気の良さそうな看護師だった。
「あ、宜しくおねがいします。」
「新しい点滴パック、付けますね。えーっと。アルコール、大丈夫ですかあ?」
「ああ、アレルギーとかは特にありません。」
「はあい。じゃ、腕、お願いします。」
若い看護師はベッド脇に傅くようにして腕を取り、シリンジから液を抽入していく。
「この病院は本当に若い看護師さんが多いんですね。昨日もそう言ったら、看護師さん、微妙な顔してましたけど・・・。」
「あーっ。神藤さんですよね。来て早々に地雷、踏んじゃいましたね。実は神藤さんがこの病棟で一番年上なんですよぉ。」
「え? あ、それで・・・。」
「大丈夫ですよ。神藤先輩はそんな事で傷つくような柔な人じゃないですから。一番尊敬してて、信頼おける先輩なんですぅ。」
「へえ、そうなんだ。えーっと、柏木・・・さんだっけ。」
「ああ、千春でいいですよ。ここは、元はこの病院の付属施設だった看護学校が近くにあって、そこから卒業したてのほやほやの看護師がまず派遣されて来るんで若い子ばかりなんです。或る程度経験積むと、別の色んな病院へ移っていくんで入れ替わりは激しいんですけれど。」
「ああ、なるほど。」
「でも、先輩の指導がしっかりしてるから心配はないですよ。私も含めて新米ばかりですけど。」
話をしながら、千春と自ら名乗った若い看護師も両腕を挙げて点滴棒に点滴パックをぶら下げている。露わになっている脇の下の二の腕はその若さを象徴するかのように張りがある。
「樫山さんはリリカという鎮痛剤を処方されてますよね?」
「ええ、昨晩も夕食の後に服用しておきました。」
「身体がふらつくことはありませんか?」
「ええ。今の所、大丈夫みたいです。」
「ふらつくようだったら言ってくださいね。この後、朝の検診が角の診察室であるんですけれど、歩いて行けますか?」
「ああ、大丈夫と思います。」
「はいっ。滴下スピードもこれでいいと思います。じゃ、朝食の後の診察が終わった頃また来ますので、それまでは安静になさっててください。何かあったらこのナースコールで呼んで下さい。」
千春看護師はそう言うとベッドサイドのナースコール用のボタンスイッチを差し示す。
「はい。どうもありがとう。今日は一日よろしくお願いします。」
「はい、こちらこそ。それじゃあ、また。」
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