ナースセンタ

妄想小説

深夜病棟


 十二

 後輩の桂木千春から脳神経外科の池田が先に帰ったというのを確かめてから、急いで帰り支度を整えるとナースセンターを出た茉優だった。
 従業員用通用口から看護師寮への路を急ぎながら、茉優は昨晩のことを思い返していた。樫山のところへ点滴の滴下状態を調べに行って思いもかけない出来事にちょっと動転しながら誰も居ない深夜のナースセンターへ戻った茉優は、自分の席に座っている脳神経外科の池田の姿を見つけたのだった。

 <茉優の前夜の回想>
 「あ、池田先生。今晩は当直でしたか。」
 「ああ。こっちの病棟は誰が当番なのかなと、ちょっと見に来たところだ。」
 茉優が担当している耳鼻科の入院病棟と池田の脳神経外科の入院病棟は同じフロアなのだった。
 「あの・・・。何かご用でも?」
 自分の座る席に居る池田に不快感を抱きながらも茉優はそう訊いてみる。
 「ああ、ちょっと君に見せたいものがあってね。」
 「見せたいもの・・・ですか。」
 「ああ、当直室に置いてあるんだ。ちょっと来てくれないか。」
 「ええ・・・・。でも・・・。」
 嫌な予感に躊躇する茉優にはおかまいなしに池田は茉優の椅子から立ち上がると先に立って廊下をすたすたと歩いて行く。茉優は断るタイミングを失って、仕方なく少し後からついていくことにしたのだった。
 (見せたいもの・・・? あの夜に関係のある事だろうか。)
 茉優の心の中でみるみる不安の暗雲が立ち込めていくのだった。

茉優

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る