ジントニック

妄想小説

深夜病棟


 十五

 <池田の二週間前の回想>
 トイレに立った茉優を見送った池田哲平は、職業柄もあって常時持参している睡眠導入剤のカプセルをポケットからそっと取り出す。マスターが自分の方を見ていないことを確認すると、歯で噛んでカプセルを割ると同じくポケットに入れてある薬包紙に中身を一旦落し、茉優のジントニックのグラスに注ぎこむ。マドラーでそっと描き回すと白い粉状の薬はすっと液体の中に溶け込んでいく。
 自分で酔い潰れたかのようにテーブルに茉優が突っ伏してしまうのにそれほど時間は掛からなかった。睡眠導入剤はアルコールと一緒に服用してはならないと注意書きのあるものだ。医師である池田は重々承知している。アルコールと一緒に呑むことによってより確実に眠りこむことも実証済みなのだった。
 マスターには自分の病院の看護師だから寮まで送ってゆくと告げてタクシーを呼んで貰い、肩で抱きかかえるようにして自分のマンションに連れ込んだのだった。
 エレベータからは他人の居ない事を確認してお姫さまだっこで自室のベッドに運び込んだ哲平だったが、この時初めて薬が効き過ぎていることに気づく。当初の予定では裸で抱き合っているうちに目を醒ますというシナリオだったのだが、ちょっとやそっとでは目を醒ましそうになかったのだ。眠ったまま犯すことも考えたが、潤ってない膣に挿入して、もし出血でもされたらそれこそ傷害罪になってしまう。それでは酔ってはいたが合意の上での性交だったというシナリオが崩れてしまう。あくまでも茉優が抱いて欲しいと言ったので連れて来たということにしなければならないと思っていた。
 自らは水をたっぷりと呑んで酔いを覚ましながらベッドの上の茉優が目覚めそうになるのを待ったのだが、寝息からはかなり深い眠りに陥っているのが判り朝までは目覚めそうもなかった。池田が近づく前に相当な量を既に呑んでいたらしいことが池田の計算外だったのだ。
 何もしないで帰すのは惜しいと一計を案じた哲平は、ぐったりしている茉優から何とか着ているものを一枚ずつ剥して全裸にしてから両手を後ろ手に縛ってその姿をデジカメに収めることにしたのだ。後日、茉優をモノにするのに材料として使える筈だと考えたのだ。セックス出来ない事の代わりとして、後で言い逃れが出来ないようにと眠っている茉優の鼻を摘んで口を無理やり開けさせ、ペニスを唇にくっつけてその写真も撮っておくことにする。フェラチオをするのに目を瞑っているのは不自然には見えないからだ。
 脱がした衣服は、酔った茉優が自分で脱ぎ捨てたかのようにわざとあちこちに散らかしておくのも忘れない。
 たっぷり全裸の写真をいろんなポーズでデジカメに収めてしまうと茉優を縛ったままベッドの毛布の下にもぐらせ、片方の手首だけ少し緩めておいて、自分は別室で仮眠を取ることにしたのだ。既に当直室の仮眠用ベッドで充分寝ているので自分自身はそれほど眠る必要はなかった。
 朝になってまだ茉優がぐっすり寝込んでいるのを確かめてから、置手紙と合鍵を置いて先に病院へ出たのだった。

茉優

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