妄想小説
深夜病棟
四十六
「樫山さん。この間言ってた神藤先輩の事ですけど・・・。」
「ああ、君が尊敬してるっていう先輩看護師さんだね。」
「ええ、茉優先輩なんですけど最近、何か変なんですよね。」
「変って?」
「急に超ミニの昔のナース服なんか着ちゃったりして、婚活の一環だなんて言ってたけど絶対違うと思うんだよなあ。それに、この頃、妙にびくびくしてる感じだし・・・。」
「千春・・・ちゃん。ちょっと近くに。」
琢也はカーテンがきちっと閉まっているのを確認すると桂木千春を傍に呼び寄せて小声で話し始める。
「茉優さんは実はいまとても困っている立場に居るんだ。彼女を何とか助けてやりたいんだけど、君の協力が必要だ。僕を信頼して僕の言うことを聞いてくれないか?」
「え? 樫山さんの事なら前からずっと信頼してますよ。困っている茉優先輩を救うことならどんな事でも協力しますけど。」
「そうか。実は君の親友の美香さん。それと君が信頼してるっていう羽黒先生にも協力して貰うことが必要なんだが、君から内密に頼めるかな。」
「内密になんですね。大丈夫です。何でも言ってください。」
樫山はその後、秘密の策略を千春に淡々と告げるのだった。
その数日後、また池田の当直当番の日がやってきた。そしてそれは茉優の夜勤の日でもあるのだった。
トントン。
早々に当直室に入っていた池田のところへ耳鼻科医の羽黒竜太郎がやってきた。
「今晩は当直なんですってね。」
「ああそうだが、君もかね。」
「あ、いや。私はもうすぐ帰るんですけど。ね、池田先生。この間、言ってた神藤茉優の事、教えてくださいよ。何であの看護師が先生の言うことなら何でも聞くのかって秘密。」
「ああ、あの話か。」
池田は若い羽黒医師をじろっとみる。浅野医師のカルテの件は明かす訳にはゆかないと思っていた。その代りにリベンジポルノのようにして眠り込んでいる茉優の恥ずかしい写真を見せるのだったらいいだろうと考えたのだ。
「いいか。これは絶対ここだけの話だぞ。」
「え? ええ、勿論です。」
「これを見てみろ。」
池田が自分のスマホを取り出して見せたのは待受け画面の写真で、茉優の口にいましも怒張したペニスが捻じ込まれようとしているものだった。
「うわっ。こ、これは・・・。間違いなくあの看護師ですよね。どうやってこんなものを。」
「ふふふ。これさ。」
池田はポケットから例の睡眠導入剤のカプセルが入った小袋を取り出してみせる。
「こ、これはベンゾジアゾビンじゃないですか。」
「以前、バーであの看護師が独りで呑んでいるのを見つけてな。近づいていってトイレに立った隙にグラスに中身を混ぜ込んだんだ。」
「え、だって・・・。ベンゾジアゾビンはアルコールと併用しちゃいけないって薬でしょ?」
「そんな事は重々知ってるさ。俺も医者だぞ。併用しちゃいけないってのは、それだけ効き目があるってことさ。」
「で、彼女。どうなったんですか。」
「言わずもがなさ。すぐに酔い潰れて俺のマンションに運び込んだって訳さ。」
「で、こんな写真があるんですね。ああ、それ彼女、何でもいう事を聞かない訳にはいかないってことですか。」
樫山から事前に打ち明けられていた話ではあったが、やっと納得したというような表情を羽黒は装ったのだった。
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