緊縛起床

妄想小説

深夜病棟


 十四

 <茉優の二週間前の回想 続き>
 憶えているのはそこまでだった。目が覚めた時、天井がぐるぐる廻っているように見えた。起きなくちゃっと思ったが手が思うように動かない。少しもがいているうちに片手だけが自由になり、更にもう片方が毛布の下から出て来た時、その手首には白い綿ロープが巻かれていることに気づいたのだ。
 (何、これっ?)
 慌てて辺りを見回すが、見覚えの無い場所に居ることに気づいた。起き上がろうと背中の方に手を突いて身体を持ち上げると、するりと毛布がずり落ち裸の胸が現れた。
 (えっ?)
 毛布の下に手を伸ばすと、下半身にも何も着けていないことが判った。慌てて片方の手首からロープを解こうとすると、もう片方の手首にも薄っすら赤い痣のようなものが出来ていることに気づいた。
 (縛られていたんだわ。)
 片方はもがいている間にほどけたらしかった。セミダブルのベッドから少し離れたところに長椅子のソファがあって、その背凭れ部分に白いものが引っ掛かっている。すぐにそれが自分のショーツであることに気づいた。
 (え、どうして・・・・。)
 毛布を引き寄せると胸の前に抱えてベッドを降りてソファに向かう。ショーツを取ろうとして床にはブラジャー、更に少し離れた場所にワンピースが乱暴に脱ぎ捨てたかのように落ちていたのだ。
 見知らぬ部屋で茫然と立ち竦む茉優だったが、何か手掛かりがないかと見渡してみてテーブルの上に何かあるのに気づく。近づいてみると一枚の紙切れの上に重石のようにキーホルダーに付いた鍵が乗っかっているのだった。
 『先に病院に行くので鍵はドアポケットに入れておいて』
 紙にはそう書かれていた。
 (ま、まさか・・・。)
 ぐらぐらする頭を抱えながら衣服を拾い集めて身に纏うと、どうやって運び込まれたのかもわからない池田医師のマンションの部屋を出る茉優なのだった。

茉優

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