妄想小説
深夜病棟
二
「こちらが樫山さんの病室になります。」
案内に来てくれた看護師は、想像してたより若い、背のすらっと高い女性だった。どこかテレビ局の朝の番組のキャスターみたいだと樫山は思ったが、折からの感染症対策の為に常時マスクを着用しているので、マスクの上に見える顔半分の眼の印象からそう感じただけだった。
「ああ、窓際なんですね。明るくて気持ちよさそうだ。」
「カーテンで仕切った四人部屋ですが、先程一人退院されたばかりで、今入院されているのはお二人だけになります。」
「そうですか。大部屋だというのでもっとうるさい感じかなと思っていたんですけど、案外静かなんですね。」
もう一人相室だという患者が居るらしいカーテンの向こう側を窺ってみるが人の気配は感じられなかった。
「今、お頼みになったレンタルの入院着と下着をお持ちしますね。お着替えになりましたらすぐに点滴を開始しますので声を掛けてくださいね。」
「あ、わかりました。」
樫山は生まれて初めて経験する自分自身の入院することになるベッドに腰を下ろしてみて、やっと本当に入院したのだという実感を覚えたのだった。
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