妄想小説
深夜病棟
十九
夜勤明けの休みの一日を脳神経外科の医師、池田哲平は自宅のマンションで寝そべっていた。仮眠室で充分に睡眠はとっている。夜勤明けだからと言って特に眠い訳でもない。それどころか、絶好のチャンスに茉優をモノにすることを逸したことで、口惜しさから興奮して眠くもならない。
(くそう・・・、あと一歩だったのに。)
深夜の当直室まで茉優を誘き出していきなり明りを消し押し倒して縛ってしまうまでは完全に哲平の描いたシナリオ通りに事が運んだ。
(あの時もしたじゃないか。自分から縛って欲しいと言ったのだ。)そう吹き込んだ哲平の言葉を茉優は案外簡単に信じた様子だった。あのまま事に及んでいれば、茉優も(どうせ、もう一回やってしまったんだから)と性行為をすんなり受け入れていた筈だと哲平は思った。
(しかし依りによって、将に接合まで漕ぎつける直前に緊急コールが掛かってくるなんて。)
あの時の哲平の緊急処置は何時になく素早く出来たと自分でも思う。AEDで蘇生させ、アドレナリンを静脈注射して酸素吸入器を繋ぐことで容態を安定させることが出来たのだ。それに数分としか掛からなかった筈だ。後を看護師たちに任せて逸る気持ちを抑えながら当直室へ戻ったのだが、中はもはやもぬけの殻だった。未だ近くに居る筈だし、両手首の縄はまだ解けていないかもしれないとも思ったが、当直室の外で誰かに見つかるのは最悪の事態になる惧れがあり深追いするのは諦めざるを得なかったのだ。
じっとしていると、ムラムラと怒りが込み上げてくる。しかしそれは誰に対する怒りなのか哲平にもはっきりしなかった。逃げた茉優なのか、緊急コールをしてきた担当ナースなのか、はたまた依りによってこんなタイミングで容態を急変させた患者なのか・・・。
(くそう、あの死にぞこないめが・・・。)
怒りの矛先を患者である老人に向けても所詮仕方のないことであるのは哲平にも分り切っていた。むしろ茉優を逃げられないように縛り付けておいた筈のソファへの結び方が甘かったと自分を責める他はないことが余計に哲平を苛立たせるのだった。
手元に残っているのは釣り上げられたマグロ状態で眠りこけている茉優にさせ得る限りの痴態を演じさせて撮ったデジカメの画像だけだった。それらは既に哲平のプライベートのパソコン上に取込んである。その画像をスライドショーで自動送りしながらオナニーをしている哲平だった。本来なら見ているだけで射精までしてしまいそうなキワドイ画像なのだが、性行為寸前で逃してしまったという口惜しさがあって、やっと勃起してきたペニスも萎えてしまいがちなのだった。
(もう、当直室のような場所に誘き出していきなり縛って犯すみたいな手は相当警戒するだろうから使えないだろうな・・・。)
哲平は茉優を陥れるのに新たな策略を編み出さねばならないことを自覚していた。材料は盗み撮りした何枚かの恥ずかしい格好の写真だけだ。しかしそれらも訴えられないようにうまく効果的に使う方法を考えねばならないと哲平は思い悩むのだった。
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