妄想小説
深夜病棟
一
「やはり即入院ですか?」
「何か困ることがありますか?」
「いや。紹介状を書いて貰った耳鼻科医院の先生がおそらくそうなるだろうと言われましたので、一応準備はしてきました。」
「そうですか。治療の点滴注射は病室に入り次第開始します。基本的に一日四回。間の時間も含めてベッドで安静にしていて頂きます。ステロイドの点滴注射はウィルスの動きを抑えることは出来ますが、ウィルスを退治する力はありません。治すのはご自身の身体の中の抗体ということになります。抗体の力を充分に発揮させる為にも安静が必要です。」
「入院は長くなりますか?」
「予定通りにゆけば一週間ということになります。」
「一週間ですか・・・。なにせ、これまで入院というものをしたことがないので。」
「そうですか・・・。何も心配は要りません。必要なことはすべて看護師が面倒を見てくれます。」
「宜しくお願いします。」
「耳の痛みはまだありますか?」
「ええ、多少。時々・・・ですが。出来たら鎮痛剤を処方して頂けると・・・。」
「勿論です。ただ、ちょっと強い薬で人に依っては副作用もあるので注意してください。」
「注意? と言いますと?」
「三半規管に影響が出る場合があります。歩いたりする際にふらつきが出る場合があります。もしそうなったらすぐに看護師に相談してください。」
「あ、はい。わかりました。」
「それから点滴を続けていると夜眠れなくなることがままあります。睡眠導入剤も処方しておきましょう。」
「それは絶対呑んだほうがいいのでしょうか?」
「眠れなくなりそうだったら呑まれたほうがよいでしょう。別に呑んでも問題ない量の処方ですので安心してください。」
「わかりました。」
「では看護師を呼びますので、病室に案内して貰ってください。」
県立総合病院の耳鼻科担当医の診断は、その前に受けた街の耳鼻科医院の医者の診立てとほぼ同様でウィルス性の病原菌による顔面の神経麻痺というものだった。点滴注射の大量投入という治療内容も街の耳鼻科医が予想していた通りのものだった。
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