妄想小説
深夜病棟
三十二
バー・カサブランカから自宅マンションに戻った医師、池田哲平は思いの外首尾よく全てが運んだことに満足しきっていた。茉優を誘き出すのに、眠った茉優の口に自分のペニスを押し付けて自撮りした画像がとても効果的だったのは予想以上だった。あの画像のせいで、もっと際どい写真をいろいろ撮られていると思い込んだのは間違いなかった。それで一体どんな写真まで撮られたのか確かめざるを得なくなったようだ。この状況なら深夜の当直室へ呼出しを掛けても応じざるを得ないと池田は確信していた。
あのフェラチオもどきの写真以外を茉優に見せるつもりは毛頭なかった。逆に全て見せてしまうと茉優が泥酔の状態をこっそり盗み撮りしたのだと気づかれる惧れがあった。もしかすると酒の酔いだけでなく、薬を使ったことまでばれかねない。そうなってしまうと茉優から反撃を受ける材料を提供してしまうことになり、茉優を自由に操るという池田の策略が崩れてしまうのだ。
次に使う材料は決定的なダメージを与える証拠品だった。切り札は耳鼻科医局から盗み出した投薬カルテなのだった。二人きりの部屋に茉優を誘き出すことさえ出来れば、あの証拠を盾に有無を言わせず茉優を攻略出来る筈なのだった。
その日はあっと言う間に来てしまった。あの脳神経外科医、池田が当直の夜で、茉優が折角夜勤を代わって貰ったのに、池田に命じられて再度交代して引き受けねばならなくなった日でもあるのだ。
(池田はあの夜、撮った画像を全て見せてくれるのだろうか? いや、見せて貰うだけでは駄目なのだ。何としてでもその画像を取り戻さねばならない。)
しかし、茉優にはそんな交渉をする為の材料は何もないのだ。
(土下座をして頼み込んだら聞いて貰えるだろうか?)
そんな事は望み薄なのは深く考えるまでもなかった。
(身体を要求してくるのはまず間違いないだろう。あの池田に犯されるなどとは考えただけで虫唾が走る思いがする。しかし、もう既に自分は池田に犯されてしまっているのかもしれない。『初めてじゃないんだし。』 夜の当直室で突然、池田に縛られて犯されそうになった時に、確か池田がそう口走っていた。あの酔い潰れてしまった夜、私は池田に既に犯されているのだろうか・・・。今夜、もし池田が自分を犯そうとしてきた時、あの夜の写真を全部返してくれるなら・・・、そう言ってみようか。そしたら返してくれるだろうか。)
そんなことを頭の中で自問自答を繰り返しながら考えている茉優だったが、出勤しなければならない時間は刻一刻と近づいているのだった。
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