妄想小説
深夜病棟
二十五
「皆んな、ちょっと聞いて。今夜、夜勤当番予定の山崎さんがお子さんが熱が出て来れそうもないっていうの。誰か、夜勤代わって入れる人、居ないかしら。」
ナースセンターで午後の打ち合わせの際に看護師長の岸谷が昼勤に入っている看護師たちに声を掛けた。
パソコンに向かって患者のデータを打ち込んでいた茉優が顔を上げる。ちょっと思案してからそっと手を挙げる。
「私、代わってもいいですけど。」
「あら、神藤さん。貴方、この間夜勤に入ったばかりだけど大丈夫かしら?」
「ええ、昨日充分休養取ってますし・・・。私もシフト、ちょっと代わって欲しいって思っていたので。」
そのままのシフトで行けば、また夜勤の日に池田医師の当直と重なってしまう可能性があったからだ。
「じゃあ、お願いしようかしら。午後は仮眠取ってきていいから。神藤さんの代りには千春ちゃん、入ってくれる?」
「はあい、わかりましたぁ。」
「じゃ、神藤さんと桂木さん。引継ぎ宜しくね。」
「はいっ。じゃ、神藤先輩っ。お願いしまぁす。」
千春は尊敬する先輩の代りを務められるのを誇りにも思うのだった。
「あれっ。また夜勤担当なんですか?」
夜最後の点滴セットにカーテンの向こうから現れたのが茉優だったので、琢也は思わず声を挙げてしまったのだった。入院が数日続いただけで、琢也はだんだんシフトの関係が頭に入ってきていたのだ。
「ええ、今日予定だった看護師さんがご家族の病気とかで来れなくなって代わったんですよ。」
「ああ、そうだったんですか。ついこの間だったと思ったんで、大変だなあって思って・・・。」
琢也はオナニーをしていたのを気づかれないように寝た振りをしていて勃起していたペニスを夜中に握られた時のことを思い出していたが、顔には出さないようにする。しかし、実は茉優の方も同じ夜の事を思い出していたのだ。
「夜は眠れるようになりましたか? 睡眠導入剤はまだ残ってますかしら。」
「ああ、まだあります。深夜に話し声で眠れないこともあったんで、事前に呑んでおこうかな。」
「え、夜中に話し声ですか? 消灯後は話はしないようにって、患者さんたちにはお願いしてるんですけど。」
「いや、ちょっと敏感になり過ぎているだけなんです。睡眠剤、呑んでおけば多分大丈夫だと思いますよ。。」
「そうですか。じゃ、消灯後に一度、滴下状態のチェックにと、12時過ぎに点滴終了頃参りますので、安心して寝ててくださいね。」
「あ、どうもありがとう。」
話をしながらも、琢也は密かに今晩は睡眠導入剤は呑まずに頑張ってみようと心に決めていたのだった。
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