匂い嗅ぎ

妄想小説

深夜病棟


 二十七

 ナースセンタに戻った茉優は、検査に送る検体などを保管する密閉出来るジップロックのポリエチレンの小袋に持ち帰った自分のハンカチを入れてさっと自分の席の抽斗にしまう。茉優の居るフロアのナースセンタにはこの日の夜勤に自分以外はもう一人、脳神経外科の若手の看護師、小池美香だけしか居ない。その美香は患者の記録をパソコンに打ち込んでいたが茉優が戻ってきたのを認めると席を立って近寄ってきた。
 「神藤さん。あの、私ちょっとコンビニに行ってきたいんで少しの間お願い出来ないでしょうか。」脳神経外科分も留守番をして欲しいというのだった。
 「ああ、この時間だったら院内のコンビニはもう閉まっているから、外まで出なくちゃならないわね。いいわよ。私で出来ないナースコールがあったらすぐ携帯に連絡入れるから。」
 「済みません。なるべく急いで戻ってきますので。」
 「あら、いいわよ。大丈夫。ここんとこ患者さんたち、落ち着いてるみたいだからそんなに慌てなくていいわよ。」
 「そうですか。すみません。じゃあ。」
 美香がナースセンタを出て行ってエレベータがやって来て扉が閉まる音が遠くでする。あたりはしいんと静まりかえっている。茉優は辺りをもう一度見回してからそっと抽斗を開けてみる。
 ジップロックの袋を取り上げるとぴっちり密閉されている開け口をひらくと、そっと鼻を近づける。甘い栗の花のような匂いがしてくる。懐かしい香りだった。その匂いを一度嗅ぐと、もう我慢出来なかった。すくっと立上ると、ナースセンタの隅のドアから繋がっている薬品庫室へ入る。そこならナースコールがあっても聞こえる筈だし、美香が帰ってきてもすぐ分かる。その場所に立ち入っていても何の不自然に思われることもない場所だった。
 薬品庫室のドアをそっと閉めると再度ジップロックの中身の匂いを嗅ぐ。すると力が抜けてへなへなとその場に座り込んでしまう。左手はジップロックから取り出したハンカチを鼻にあてながら右手でナース着の下に穿いているスラックスのボタンを外しジッパーを降ろす。最初膝の辺りまで下げていたが、まどろっこしくてスラックスから片足を引き抜くとしゃがんだまま大きく股を広げる。既にあの部分はぐっしょりと湿り気を帯びている。ショーツの脇から指を突っ込んでその湿り気の中心になっている部分にあてがう。
 「ああ・・・、もう我慢出来ないっ。」

給湯室自慰

 ハンカチの中の栗の花のような香りは、嘗ての恋人、浅野涼馬をすぐに想起させた。ついこの間別れたばかりの恋人のように、緊縛プレイを求めたりしなかったがオーラルプレイはしばしば行っていた。むしろ茉優のほうから積極的に咥えさせて貰い、男の精を嚥下するのもいとわなかった。そのせいでザーメンの匂いが茉優に強烈に性欲を催させるのかもしれなかった。
 「ああ、涼馬っ・・・。して欲しいっ。」
 涼馬が自分に跨ってくるのを夢想しながら茉優は自分の指でその部分を弄び慰めるのだった。

茉優

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