pills

妄想小説

深夜病棟


 二十八

 看護師がカーテンの向こうに消えて、廊下をコツコツ足音を立てながら離れていくのを耳で確認してから琢也は目を開いた。起きていることは何とかばれないで済んだようだった。傍らのテーブルにダミーで置いておいた睡眠導入剤の使い掛けのケースが看護師を信用させたようだった。あの看護師が今夜も担当するとしって、寝ている振りをしていればきっと又、毛布の中に手を入れてくるだろうと思い、わざと薬は飲まずに起きていたのだった。
 (昼間の亜里沙って娘もなかなかのテクニシャンだったが、茉優っていう看護師も相当経験を積んでいるようで、男をイカせる技には長けているようだな。)
 はからずも一日に二度までも女性の手で射精までイッてしまうとは思いもしなかった琢也だった。昼間の亜里沙の時は、使い捨てのウェットタオルで拭ってくれたのだが、さっきは咄嗟に自分のハンカチを出しているのに薄目を開いて見ていた琢也は気づいていた。
 (彼女のハンカチを汚してしまったのは、申し訳なかった。)
 そう思った琢也だったが、それがわざわざザーメンを持ち帰るためだったとはさすがに琢也も思いつかなかった。ましてや、それが深夜の薬品庫室でオナニーに使われているなどとは想像もしないのだった。
 (あの声は、間違いなく夜な夜な聞こえてきた男女の睦み声の片方に違いない。そして、聞こえてきているのはどうも廊下の突き当たりにある当直室かららしい。)
 琢也はそれまで看護師たちなどから得た情報を頼りに聞こえてきた内容を整理して組み立てていた。看護師、神藤茉優と、その相手だった当直医師との間には何か複雑な関係がありそうだと琢也は推理し始めていた。

 「お早うございます、樫山さん。もう起きてますか?」
 カーテンを潜って入ってきた看護師、神藤茉優に琢也は今、起きたとばかりに目を擦りながら挨拶する。
 「ああ、ぐっすり寝ちゃったみたいだ。あの薬はよく効きますね。」
 「そうですか。なら良かった。」
 そう言った茉優だったが、どうして良かったのかは自分の胸の中に留めることにする。
 「それじゃ、いつもの検温と血圧測定しますね。」
 琢也はいつものルーティンのように茉優から体温計を受け取ると、その手をベッド脇にすこしはみ出るように出す。茉優は琢也の二の腕に血圧計を巻く為に一歩近づく。その際に琢也の腕の先が茉優の太腿に触れる。それが琢也にはもう普通の事になっていた。
 「はい、いいですよ。じゃ、これで私の勤務は終りです。昼勤の者にあとは引き継いでおきますので。」
 「ああ、ご苦労さまでした。ありがとうございます。」

茉優

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