妄想小説
深夜病棟
七
ふと気づいた時には点滴パックは無くなっていた。気づかぬうちに寝てしまってその間に看護師は点滴を外しに来てしまったようだった。毛布の下で手を伸ばすと、パジャマのズボンとトランクスはまだ下したままだった。ゆっくりとそれらを腰まで引き上げる。
(看護師はもう一度確認したのだろうか・・・。)
完全に寝入ってしまっていたようで、全く気付かなかった。それで琢也には看護師が外しに来た際に毛布をめくったかどうかも確かめようがなかった。しかし利き腕に繋がっていた点滴チューブは接合部で外されてガーゼに包まれてベッドの脇にぶら下っているし、点滴棒のフックには既に点滴パックも無くなっているので、看護師が来たのは間違いない筈だった。
(今、何時だろうか・・・?)
テーブルの隅に外して置いておいた腕時計を引き寄せると深夜の1時過ぎだった。病棟は完全に静まり返っていた。いや、静まり返っていると思っていたのだが、遠くでラジオかテレビが点けられている様子でそれらしい音が微かに聞こえていた。ベッドに横になった際には確かに聞こえていなかった筈だと琢也は思った。一旦、聞こえていると分かると、それが気になってなかなか寝付けない。
その時、ラジオかテレビの音とは別に話し声が聞こえるような気がした。寝返りを打って横たわってみると、話し声は更にはっきりと聞こえるようになる。
「・・・。だめ・・・。いや、・・・めよ・・・。」
「・・・じゃない・・。・・・だろ。」
「・・・よ。だから・・・。ああ、・・・よ。」
はっきりとはしないが男と女の声が混じっているようだ。ところどころ聞こえたり、聞こえなかったりするので余計に気になってしまう。
身体の向きを変えてみると、聞こえにくくなるが何を話しているのか判らないだけで声がしていることだけは感じられる。
このままでは眠れなくなると思い、一旦は思い留まった睡眠導入剤を包んでいたティッシュから取り戻すと傍に置いてあった水差しの水で一気に呑み込む。
するとほどなく眠りに落ちてしまったのだった。
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