妄想小説
深夜病棟
四
「あ、まだ起きてらっしゃったんですね。最後の点滴になります。」
樫山が女子アナ風だと感じた同じ看護師がカーテンを潜って入ってきた。
「昼間なるべく起きておかないと、夜眠れなくなることがあるって聞いたので点滴が始まるまでは頑張って起きていようと思ったんです。」
「睡眠導入剤は処方されませんでしたか?」
「ああ、貰ってます。後で呑んでおくことにします。」
「そのほうがいいと思いますよ。点滴を始めたらすぐ消灯になっちゃうんで、終わる時はお休みになっていても大丈夫ですから。」
「そうですか。じゃ、安心して薬も飲んでおきます。」
「あっ。」
突然、看護師が高い声を挙げたので樫山は頭を擡げる。
「ごめんなさい。シリンジを落としてしまって。」
「シリンジ?」
「ああ、点滴のチューブ内で血液が凝固しないように接合部に抽入する薬です。大丈夫です。替えも持っていますから。」
そう言いながら、看護師はベッド脇のサイドテーブルの下に落としたらしいシリンジなるものを捜して身を屈めている。樫山には背を向ける格好でテーブルの下を探っているので、お尻を突き出す格好になっている。看護師がスクラブ着というナース服の下に穿いている白いパンツスーツがあまりに身体にぴったりフィットしている為にお尻に斜めのパンティラインが浮き出てしまっているのをつい樫山が凝視してしまうのだが、看護師は気づいていない。
「あ、ありました。すいませんでした。」
看護師は落したのとは別のビニルパックからシリンジを取り出すと消毒した点滴チューブの接合部に手際よく薬を抽入してから新しい点滴パックに繋ぎ換える。
「はい。じゃまた後ほど。」
看護師が点滴の滴下具合を確認した後、樫山は担当医から看護師経由で渡された薬の袋から睡眠導入剤を一粒取り出したが、ちょっと考えてからティッシュに包んで抽斗の中にしまっておく。眠れないかどうか試してみてからでもいいかと思ったのだった。

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