決意のミニ

妄想小説

深夜病棟


 四十四

 翌朝、茉優はナースセンタに入る前に、一度深く呼吸して気合いを整える。
 (自分からうろたえちゃ駄目なんだわ。)
 そう自分に言い聞かせると、胸を張ってナースセンターに踏み込む。
 「お早うございます。」
 「神藤先輩、おはよ・・・。え、それっ。」
 超ミニのクラシックタイプのナース服で入ってきた先輩看護師の姿を認めて、千春は息を呑んだ。
 「あ、これ? 私が昔、使ってたやつ。私も亜里沙ちゃん見習って、女性っぽくしようと思って。ほら、婚約も解消しちゃったでしょ。だから、本気で婚活しようと思って。これもその一環。」
 努めて明るく振る舞おうとしている茉優だったが、超ミニの看護服は茉優の歳では娼婦のコスプレにしか見えない。
 「あら、私に対抗してるのね。しかも私のより短いみたい。」
 そう小声で揶揄したのは、千春の横に居た仲田亜里沙だった。池田に命じられて超ミニのナース服を着せられているとは知らない後輩看護師たちは茉優の痛々しい姿にそれぞれに思いを馳せるのだった。

 その時、同フロアの耳鼻科医師、羽黒竜太郎と、脳神経外科医の池田哲平は一緒に歩いて朝の診察室へ向かうところだった。廊下の反対側からいわゆるクラシックタイプのナース服に身を包んだ看護師が歩いてくるのをみとめて、そのミニの短さに若い羽黒は眉を吊り上げる。
 「おう、久々にみるなあ。ああいうナース服。」
 「君んとこの若い看護師にも居るじゃないか。いつもああいうミニの娘。」
 「ああ、仲田亜里沙ですね。でも、ちょっと違うなあ。色っぽさってのか。大人の色気っていうのか。」
 「あ、池田先生。お早うございます。」
 擦れ違いざま、茉優は視線を合わさずに深々と頭を下げ、二人が通り過ぎるのを立止って待っている。
 「あ、おはよう。」
 「お早うございます。神藤看護師。」
 羽黒は医師で、茉優は看護師だが、この病院に勤めるキャリアとしては茉優のほうが先輩だ。だから、看護師の茉優が同じ耳鼻科のスタッフである自分にではなく、年上の池田の方に挨拶したのは頷けはするが、ちょっと納得いかないものを羽黒は感じた。
 「いいですね。ミニは、やっぱり。」
 通り過ぎてから羽黒は看護師に聞こえないように小声で池田に向かって囁く。
 「君も好きかね、ああいうの。」
 「ええ、やっぱり男ですから。」
 「ふうん。いや、実はあの格好をさせているのは俺なんだ。」
 「え、池田先生が? どういう関係なんですか、お二人は?」
 「ああ、今度ゆっくり教えてやるよ。じゃ、俺の診察室はこっちだから。」
 「ええ、また宜しく。池田先生。」
 羽黒は手を挙げて池田医師に合図してから、廊下を振り向いてミニのナース服が遠ざかっていくのを見送ったのだった。

茉優

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